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第二章 閑古鳥③

「フォルシュランドでは本当に好評だったんです。国が違えば目新しさも感じるだろうし、きっとアルヴァンデールの方にも気に入って頂けると思ったのですが……」  ミルヴァはニーナが出したお茶を口にする。カップを持つ指も体型と同じく太いのだが、伯爵夫人だけあり持ち方や所作が優雅だ。  ミルヴァはふぅと微かに溜息をつき、言いにくそうに口を開いた。 「私はもうこんな歳だからよく分からなかったんだけど、息子と嫁に聞いたらね、その、ちょっと古いんですって。貴方が描く服のデザイン。この国では十年くらい前に流行った形が多いのよ」  カイとアルトは共に押し黙った。  カイは己の中から湧き出る発想でこれまで服を作ってきた。そう思っていた。だが、どこかで見たものを出していたに過ぎなかったようだ。  ショックで黙るカイを横目に見つつ、ヨエルは明るく言った。 「では、もっとこの国の流行を取り入れれば、勝算はありますね!」 「まあ、そうね。伸びしろはあると思うわ」  家主と雇い主に気を使われてしまったカイだが、気持ちは焦るばかりだ。  他に無い独自の発想だからこそカイには価値があると思われていたのだ。それが今後は今流行(はや)っている物をただ真似て作る事になるのだろうか。それならヨエル一人だって出来るし、人手が足りないならカイでは無くこの国に精通した仕立て屋を雇ったほうが早い。  カイは自分自身に価値が無いように思えた。  そして、暗い森を彷徨い歩くイメージが身体の内側から全身を覆って来るような感覚がした。 (駄目だ! あんな生活には戻りたくない! しっかりしろ!)  カイは拳を握りしめた。  良いじゃないか。流行の複製であっても。求められる物を作り利益を得るのが商売だ。ヨエルやニーナも人生をかけている。自分に出来る事を精一杯やらねば、二人にも申し訳ない。  カイはそう考え、顔を上げた。 「ミルヴァ様、出来るだけ貴族の方たちと関わりを持ちたい。ぜひお力をお貸し頂けますか」  カイの申し出にミルヴァは少し驚きながらも笑顔で応えた。 「いいわよ。出来る限り協力するわ。貴方は見た目も良いからきっと気に入る人も多いわ。その顎髭もご婦人にはウケが良さそうね」 「使えるものは何でも使いますよ」  場合によっては身体さえ売れと言っているようにも聞こえるが、カイは本当に何でもする覚悟を持った。

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