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第二章 転機①
進むべき道が分かったカイとヨエルはこれまでにも増してがむしゃらに模索を続けた。
二人は貴族や商人たちから依頼取り付ける事よりも親睦を深める事を優先し、世間話や愚痴等も積極的に聞き、可能な場合は持っている服も見せてもらい情報収集に努めた。そしてアルヴァンデール特産の真っ白な絹も積極的に取り入れるようにして行った。
ニーナもまた家事をしつつ積極的に二人を手伝い、街の人達から世間話を通して様々な情報を仕入れてきた。
そんな努力が徐々に実を結び、小さいながら注文も貰える事が増えてきた。まだまだ生活が安定するレベルでは無く、日々蓄えを切り崩し三人食べるのがやっと、と言う状態ではあったが。
そんなこんなであと数日で六月も終わろうとしていた頃、ミルヴァが再び工房へやってきた。
「ああ、良かった! 二人とも居て!」
ミルヴァは開口一番にそう言い、玄関扉の向こうに「さあ、お入りになって」と声をかけた。
ミルヴァに促されて入ってきたのは小柄で品のよい婦人だった。歳は二十代後半位で白襟の付いた黒い服を着て、茶色の髪は丁寧に後頭部でまとめている。
「いらっしゃいませ、ミルヴァ様。本日は如何されましたか?」
ヨエルが店主らしく尋ねた。
「こちらロッタ様。私の遠縁にあたる方なの」
「ロッタ・ユセランと申します。突然押し掛けてしまい申し訳ございません」
ミルヴァに紹介されたロッタは丁寧に頭を下げた。
「全然問題無いわよ! どうせまだそんなに忙しく無いんだから」
ミルヴァはオホホと笑っていたが、カイは内心『人気無いってバラさないでくれよ』と思っていた。
「ロッタ様、お越しいただきありがとうございます。さあ、こちらへ」
ヨエルがロッタとミルヴァを応接用ソファへ座らせた。ミルヴァ以外の客がそのソファを使うのは初めてでは無いだろうか。
「今日ね、ロッタ様に貴方達の事を話したらとても興味を持ってくださって。後日改めて呼び出そうと思ったのだけど、もう今日こちらから行ってしまおうって事になって!」
座ると同時位にミルヴァが興奮気味に言ってきた。ロッタは見た雰囲気、どこか貴族のご夫人という感じはしない。それをミルヴァが敬称をつけて呼んでいる事にも違和感を感じた。
(この人、何者なんだ……?)
カイはそう思いつつ笑顔を向けているとロッタが話し始めた。
「私はとある高貴なお方にお仕えしております。今日ミルヴァ様からこちらのお話をお聞きして、ぜひ我が主とお会いして頂きたいと思い、お伺いした次第です」
「服を作って」では無く「会って欲しい」とはどういうことなのだろうか。疑問に思っているとロッタはさらに続けた。
「正直に申し上げて、我が主が服の仕立てを依頼するか確証が無いのです。ですが、フォルシュランドには関心がありそうなので、その会話から服を仕立てる方向へ話が進むことを期待しての依頼です」
服を仕立てたがらない主とはどのような人物なのだろうか。カイの頭の中では気難しくボロボロの服を着た老人が浮かんだ。
(厄介そうだな。でも高貴な方って言ってたし……)
今この三人の台所事情を考えると金持ちとはお近づきになっておきたい。客を選んでいられる立場ではないのだ。
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