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第二章 アルヴァンデールの王①

 七月始めの日、国王謁見が許されたカイとヨエルは共に城へと入った。  アルヴァンデール国王の居城は巨大な石造りでその敷地はどれくらいの大きさなのか検討もつかないほど複雑に広がっているようだった。  どこまでも続くような高い天井の回廊を通り、これまた教会のように広い謁見室に通された。  広すぎて寒々としてくる石造りの空間。空の玉座を前にして二人ぽつんと立たされ、国王を待った。 「お前、やっぱり髭剃ってきた方が良かったんじゃないか」  ヒソヒソとヨエルが言ってきた。 「そんな、今言うなよ。何年もこの形だし……」  カイは自身の顎に触れた。短めに切っているから不潔な感じはしないと思うが、改めて言われると不安になってくる。  二人で待たされること数分。正面の右端にある長細い木製の扉が開き、兵士が四名入ってきて部屋の後方に立った。そしてそれに続いて入って来たのはロッタ。ロッタは二人に視線を向けると挨拶代わりに柔らかな笑顔を向け、部屋の右端に立った。  その次に入ってきたのは赤毛の少年だった。まだ子供のような身体つきだが腰にはサーベルを挿し、ツンッと顔を上に向け胸を張って歩き、玉座の左後方に立った。王に仕える事を誇りにしていると全身で語っているようだ。  そして黒衣の男が入ってきた。  一見僧侶かと思うような出で立ちだが、放つ気品から場の空気が変わったのを感じた。何気なく歩いているだけなのに姿勢の良さや、身のこなしから眼が離せなくなる。そして一つに結わえただけの金の髪が、彼の一歩一歩に合わせて光を放つかのように背中で揺れていた。さらにその美しい金髪で彩られても全く引けを取らない整った横顔にカイの視線は釘付けになった。  少し伏せられた長い睫毛からエメラルドのような艷やかな緑の瞳がちらつく。  もっと見たい。正面からもっとよく見たい。という想いがカイの頭を支配した。 「カイ」  横からヨエルが小さくその名を呼び、裾を軽く引っ張った。カイはあわてて膝をつき頭を下げた。  一瞬、何もかも見えなくなってあの金髪の男に見入っていた事に自分自身で驚く。  カイは頭をさげたまま、その黒衣の男が正面に据えられた玉座に座るの気配を感じた。 「陛下、こちらがテーラー・アールグレーンのヨエル・アールグレーン様と、助手で仕立師のカイ様でごさいます」  頭をさげたまま聞こえてきたのはロッタの声だ。にこやかにヨエルとカイについて説明してくれている。 「アールグレーン様はフォルシュランドではお兄様と共にテーラー営まれ大変人気を博していたそうですが、この度独立されて我が国に出店された次第にございます。我が国の白い絹など大変興味を持ってくださっております」  ヨエルとカイは緊張で固まりながら頭を下げ続けた。 「アールグレン殿、カイ殿、どうぞ楽になさってください」  玉座から涼やかでしっとりと落ち着いた声が降りてきた。  その声は懐かしさと切なさと新鮮さが入り混じるような感覚とともにカイの胸に響いた。

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