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第二章 アルヴァンデールの王②

 カイはヨエルと共に顔を上げ、その王の顔を正面から見た。  想像以上の整った顔。肖像画よりも美しいとの噂は本当だったと実感した。ずっと眺めていたいとカイは思ったが、どこか魂の無い人形のようだとも感じた。整い過ぎているからだろうか。 笑ったらきっとさらに美しいだろう。 「アルヴァンデールへようこそお越しくださいました。ご商売は順調ですか」  平民でしかも異国人であるにも関わらず王マティアスの口調は賓客をもてなすかのように丁寧だった。 「は、はい! 入国したばかりの頃は戸惑うこともございましたか、試行錯誤を重ねまして近頃はだいぶ手応えを感じております!」  緊張で声が裏返っているヨエルの話をマティアスはその整った顔でうなづきながら聞いている。  口角は上がっている。いや上げているといった感じか。穏やかに見えるその表情は威圧感がなく話し手は安心して話せるようだ。 「このアルヴァンデール王国には素晴らしい素材が揃っており感動しております! 特に真っ白な絹は染めても鮮やかですし、そのものも純白でこれまた美しい」  ヨエルはマティアスが優しく聞いてくれることに勇気付けられたのか、さらに踏み込んだ話をしようとしているとカイは感じ取った。 「陛下、ぜひとも陛下にアルヴァンデール特産の絹を使った艶やかなお召し物を我らに作る栄誉を頂けないでしょうか」  ヨエルは真っ直ぐな矢を放つように今回の目的を伝えた。  それを聞いたマティアスはフッと微かに微笑みを浮かべる。カイはその表情に少し血の通った人らしさのようなものを感じ、それがヨエルに向けられたと思うと悔しさを感じた。 「アールグレーン殿、私は自分の身なりに金をかけるつもりは無いのですよ。服も黒で良いと思っています」  ロッタが話していた通りだったようだ。  ヨエルとカイも予想していた回答ではあるが、無理に作ってくれとも言えない。  カイは『これで終わってしまうなら』と思い口を開いた。むしろマティアスと話してみたかったし、自分にも視線を向けて欲しかったのかもしれない。 「恐れながらマティアス様」  思い切って口を開くとマティアスの視線がカイに向けられた。その緑の瞳に驚きが波紋のように広がっていく。 (あ、マズい。『陛下』って言うべきだった…)

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