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第二章 アルヴァンデールの王③
緊張のせいなのかつい口が滑り『マティアス様』などと気安く呼んでしまった。背中にジワッと汗が浮かぶのを感じる。カイは焦りながらも誤魔化し話し続けることにした。
「質素倹約に徹するお心構え、大変素晴らしく感銘を受けております。陛下にぜひとも豪華な衣装を、と思っておりましたが、考えを改めます」
マティアスが時が止まったかのようにカイを見て固まったままでいる。その驚いた表情にやや疑問を感じながらも、カイはこの美しい王が自分を見つめていることに強い喜びを感じた。
さらに感じた想いをそのまま口にする。
「なにより黒のお召し物に御髪がよく映え大変良くお似合いになっております。陛下の金の髪はもはやこの国の宝であると確信致しました」
「ぁっ……!」
その時、マティアス小さく声を上げ玉座から立ち上がった。
両目を見開き、今にも叫び出しそうな口を両手で抑え震えている。その視線は明らかにカイを見ていた。
「陛下……?」
何が起こったのかわからずカイはマティアスに呼び掛けた。
「………っ!」
途端に人形の様だと思っていた緑の瞳が熱く揺らぎ、顔全体がみるみる間に真っ赤に染まった。
「陛下、如何されましたか?」
ロッタが声を掛け近づく。するとマティアスは苦しそうにカイから視線を剥がすと、先ほどの優雅な入場とは打って変わりドタドタと足音を立てて右端の扉から出て行ってしまった。
「陛下っ!」
ロッタはカイとヨエルに会釈するとマティアスを追いかけて行く。遠くまで走る足音と何やら叫ぶマティアスの声、そしてそれをなだめるロッタの声が微かに聞こえてくる。
カイとヨエルは呆然とその光景を見ていた。
「き、貴様が陛下に無礼な事を申すからだっ!」
玉座の横に立っていた赤毛の少年がカイを指差し怒鳴りつけてきた。声変わり前のキャンキャンとした声で喚かれカイは苛立ちを感じた。
「ルーカス、勝手に客人に失礼な事を申すな」
そう口を挟んで来たのは後ろに控えていた兵士だった。オレンジ色の髪が印象的だ。
「で、ですが、陛下は明らかにこの者から言の発言で……!」
兵士はルーカスと呼ばれた少年を無視して、カイとヨエルの前にやってきた。
「せっかくお越しいただいた所もう訳ないが……」
オレンジ髪の兵士はカイと目が合うと言葉を途切れさせた。不審に思い眉を寄せると兵士すぐに「失礼」と言って笑顔を浮かべた。
「後日またご連絡するかと思いますので、今日の所はお引き取りください」
兵士にそう言われたら、カイとヨエルはそれに従うしかなかった。
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