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第二章 思わぬ賓客①

 国王謁見の騒動から四日が過ぎた。  くよくよしていても仕方ないので、これまで通りヨエルは営業活動に奔走し、カイは既に受けている案件の作業を進めつつ、新しい構想も練っていた。  依然、王城からは良くも悪くも音沙汰が無く、三人ともどこかソワソワとして過ごしている。 「なんか、むしろ調子良くない?」  カイの描いたラフ画を手に取り、ニーナが言った。  今日は朝からヨエルがミルヴァに紹介された貴族を訪問していて不在だ。 「そうか?」  ニーナの問にカイはとぼけた。  正直今の自分は絶好調だと感じている。この国で出会った流行をそのまま真似るのではなく、どんどん別の形に昇華することができるのだ。それは明らかにマティアスに出会ったからだ。しかし邪な欲望めいた想いが原動力になっていると実感していたので、他者へは胸を張って言うのは躊躇われた。 「ここの形とか、凄く素敵……」  ラフ画を見つめながらニーナがぽつりと呟く。褒められるのは嬉しい。だがこれを一番着せたい人に着てもらう事はもうほぼ無理だ。  ニーナと二人でそんな話をしていた時、工房前に一台の馬車が止まった。 「お客様かしら」  ニーナの呟きを聞きならカイは作業台に広げていたラフ画を軽く片付けた。ヨエルが不在なので面倒な案件でないと助かるのだが、と思いつつカイは窓からその馬車を見た。 「ロッタ様だ……」 「えっ!」  面倒どころかこの工房の最大の問題が来てしまった。  馬車から降りてきたのはロッタとあのオレンジ髪の兵士だった。兵士はそのまま馬車の前に立ち、ロッタが一人で玄関先まで歩いてくる。  兵士が一緒に来たことに最悪の事態を想像する。やはりニーナが心配していたように何らかの罰が与えられるのだろうか。  しかし迷っている暇も選択肢も無い。  カイはロッタより先に玄関扉を開け、作った笑顔で出迎えた。ニーナもカイの後ろで笑顔を作る。 「ロッタ様、いらっしゃいませ」 「カイ様、ニーナ様、こんにちは」  ロッタは柔らかな笑顔で挨拶をしてきた。これはもしかしたら何か罰を知らせに来た訳ではないかもしれないと淡い期待が芽を出す。 「突然申し訳ございません」 「いえいえ、お越し頂きありがとうございます。ヨエルは不在なのですが、中へどうぞ」  カイが中へ招き入れようとしたが、ロッタはそのまま玄関先で言い難そうに話し始めた。 「あの……実は、陛下がどうしてもこちらに来たいとおっしゃられて……」 「え?」 「よろしいかしら?」  そう言ってロッタは乗ってきた馬車を見た。  黒い馬車の前でオレンジ髪の兵士がやたらと親しげにこちらに手を振ってくる。その背後の馬車の窓からチラリと金髪が見えた。

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