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第二章 思わぬ賓客③
きっとその無表情が彼にとってと正常値なのだろうと予測しカイはマティアスの正面に座った。
「陛下、お越し頂きありがとうございます。店主のヨエルが外出しておりますが、直ぐに呼んで参りますので」
カイは営業用の笑顔を浮かべて伝えた。
「いや……こちらが勝手に来たのだ。……ヨエル殿のお仕事を邪魔しては申し訳ない」
「いえいえ、陛下が我らの工房へお越しになっているなんてこんな栄誉はございません。ヨエルもぜひご挨拶したいはずですので」
「そうか……」
マティアスは変わらず無表情でそう返してきたが、次の瞬間、その緑の瞳がゆらりと揺らぎカイを見つめてきた。
「あの、それで……先日は城まで来てくれたのに話の途中で離席してしまい、申し訳なかった。今日はそれを伝えたくて来たんだ……」
上目遣いで目元を染めて話してくるマティアスの色っぽさにカイは動揺した。動揺しつつもなんとか言葉を絞り出す。
「そんな、……勿体無いです」
王城の謁見室より遥かに小さなこの空間で、目の前にマティアスが座っている。
金髪の艶や、頰の滑らかさ、淡い唇の色、長い睫毛の一本一本、そして煌めくエメラルドのような瞳。それらが手を伸ばせば届く距離に存在している。しかもカイはあの後、彼に着せる想定の破廉恥な衣装を描き、己の欲望をぶつけるような夢まで見ている。
(マズい。顔に出そうだ……)
カイが必死に動揺を抑えているとマティアスの横に立ったロッタが口を挟んできた。
「陛下はあの時体調を崩されてしまったのです」
マティアスは気まずげな顔をしている。
「そうでしたか。その後お加減は如何ですか」
「も、もう大丈夫だ」
「それは良かったです。私が失礼な発言をしてしまったのかと思っておりましたが……」
「……すまない、何と話されていたか覚えていないのだ……」
カイは自分の発言が原因では無かったことにホッとしつつ笑顔を向けた。
「……陛下は黒のお召し物が良く似合ってらっしゃるとお伝えしておりました。金の御髪 がよく映えていらっしゃいますので」
カイがそう話すとマティアスは一瞬驚いた顔をし、そしてふわりと嬉しそうな微笑みを浮かべ言った。
「そうか。何となく髪を褒めてくれたことは覚えてるよ」
その表情の可愛らしさにカイの心臓は大きく跳ねた。
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