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第二章 思わぬ賓客④

「し、失礼します」  その時ニーナがお茶を持って来た。  緊張で盆を持つ手が震えカップがカチカチと鳴っている。このままではぶち撒けられそうなので、カイが盆からカップを取りマティアスの前に差し出した。 「どうぞ。フォルシュランドでよく飲まれている茶葉です」 「ありがとう」  マティアスが笑顔で礼を言ってきたが、先程の笑顔とは違いまた人形のような顔に戻っていると感じた。 「そちらのお嬢さんがヨエル殿の妹君か?」  ロッタや他の従者にもお茶を配るニーナを見てマティアスが尋ねてきた。どうやらロッタからこの工房の構成をある程度聞いてきたようだ。 「ええ、そうです」  カイはそう返事をしニーナに目配せするとニーナはマティアスに向き直ってお盆を抱えて頭を下げた。 「に、ニーナ・アールグレーンと申します」  マティアスは変わらず笑顔を貼り付けたまま「宜しく」と一言言い、カイを見て尋ねてきた。 「二人は……、夫婦なのか?」 「えっ!」  驚いたが声を発しなかったカイに対してニーナは狭い工房に響き渡るほど大きな声を上げてしまった。ニーナは真っ赤になって「すみません……」と呟いた。  カイは苦笑いを浮かべながらマティアスに視線を向けた。 「違います。予定もございません」  マティアスは口を手で擦りながら気まずげな表情を浮かべた。 「失礼した。ヨエル殿は妹君の婿殿と一緒に事業をされているのかな、と思って……」 「お恥ずかしながら我々は三人とも独身なもので」  そう言った後、『お恥ずかしながら』は余計だったと思った。マティアスもまた独身だからだ。 しかし、 「奇遇だな。実は私もなのだよ」  マティアスが笑いながら冗談めいた事を言ってきた。カイはマティアスとの距離がグッと縮まった気がして嬉しくなった。 「で、では私は兄を呼んで参ります」  ニーナがそう言い頭を下げた。  するとマティアスが「ニーナさん」と彼女を呼び止めた。 「急いで事故などに遭わないように。ヨエル殿が帰宅されるまで待たせて頂きますので」  マティアスはそこまで言ってから「あ、」と小さく言ってカイに視線をむけた。 「お邪魔でなければ……」  上目遣いで見つめてくるその表情がまるで甘える子犬のようでカイは思わず頬を緩めた。 「ええ、陛下のお時間が許されるのであれば、いくらでも居てください」  カイがそう言うとマティアスは嬉しそうに微笑んで「良かった……」と呟いた。

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