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第二章 思わぬ賓客⑤

 ニーナを見送るとマティアスは出されたお茶に手を伸ばした。 「陛下、私が毒見を」  その時、横に控えていたルーカスがマティアスの手を止めた。そしてマティアスに出されたカップを取るとまじまじと見つめ、匂いを嗅ぎ、一口口に含む。 「……大丈夫です」  ルーカスはそう言ってカップを戻した。  カイはその様子を微笑みながら見つつも内心は呆れていた。 (もっとさり気なくやれよ。俺だったら……)  このルーカスと言う少年はマティアスしか見ていないが、もっとマティアス以外の人間へも配慮すべきだ。でないとマティアスが恥をかくことになる。 「ルーカス、もっと控えめに出来るようにならないとね」  マティアスはルーカスを優しく諭し、当人はしゅんと落ち込み小声で「申し訳ございません」と呟いた。 「申し訳ない。まだ私の元に付いて半年なのだ」  マティアスはカイの方を見て苦笑いを浮かべた。苦笑いではあるのにその慈愛に満ちた表情にカイは胸が痛くなった。 「お若いのに頑張ってらっしゃるのですね」  カイは作った笑顔で言う。  若く未熟であるにもかかわらず、マティアスの側に居ることを許されているこの赤毛の少年。本人は守っているつもりなのだろうが、むしろマティアスに守られているのだろう。そんなこの少年ルーカスをカイは羨ましくもあり、腹立たしくも感じた。 「カ、カイ殿は……」  そんな事を考えているとマティアスに初めて名を呼ばれた。マティアスが名をちゃんと覚えてくれていた事に喜びを感じる。 「この仕事に就いて長いのか?」 「アールグレーン家で働いて五年目になります」 「五年……結構長いのだな」  そう言われるのは意外だった。カイの見た目やヨエルとの気さくな関係から十年以上勤めていると思われることが多いのだが。 「どんな服を作ってるんだ?」  マティアスが見つめてきた。  服に関心を持ってもらえるのは嬉しい。たとえヨエルが戻るまでの時間潰しであってもだ。そして一度は諦めた『国王陛下の服を仕立てる』と言うチャンスが再び巡ってきている。  カイは「えっと……」と言いながらソファを立ち、先程作業台で描いていたラフ画を漁った。自分でも出来が良いと思うものを六枚ほど選び、マティアスの前に差し出した。 「先日、陛下にお会いしてから何案か描いてみたんです。……断られたのに勝手なのですが」  カイからラフ画を受け取ったマティアスがそれを見つめた。

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