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第二章 思わぬ賓客⑦

「その、貰った素材はどこに置いてるのだ? どこかに倉庫を借りてるのか?」  ふとマティアスが部屋を見回しカイに尋ねてきた。  明らかに小さな家でそんな素材の置き場所は無さそうに見えたのだろう。 「この下です。地下倉庫があるんです」  マティアスが住む城からしたらこんな民家自体が珍しいのだろう。小さく「へぇー」と言って辺りを見回す。 「小さい倉庫で、持ってきた荷物を入れたらもういっぱいで。来るまではもっと広いだろうと思っていたんですけどね」 「この部屋と同じ広さなのか?」 「そうですね、だいたい同じかなぁ……。ご覧になります?」 「いいのか?!」  何気なしに誘ってみたらマティアスは好奇心旺盛な少年のように目を輝かせた。思わずカイも笑みが零れる。 「普通なら陛下をお招きするような場所ではございませんが」  するとマティアスの横で待機していた赤毛のルーカスが声を張り上げた。 「陛下、そうですよ! 倉庫など御身が入られるような所ではございません! クランツ隊長、駄目ですよね?!」  ルーカスに振られたオレンジ髪の兵士が、「ハハハ」と笑いながら答えた。 「それくらい良いんじゃないでしょうか。王子時代の陛下はもっと無茶をされてましたから」  その答えを聞いてマティアスがソファを立った。 「よし、ヨエル殿が戻られるまでまだかかるだろうし、せっかくなので案内して貰おう」 「ええ、どうぞ」  カイも立ち上がり、マティアスを地下へと続く階段へと誘導した。  カイの後ろにマティアスが続き、その背後からルーカスもついてきた。  階段を降り木戸を開ける。 「あれ、なんか物が増えてるな……」  木戸を開けてランプをつけると、入ってすぐの所に覚えのない木箱が置かれている。軽く蓋を開けて中を見ると芋が入っていた。ニーナが置き場所に困ってここに置いたらしい。  そんなカイの背後からマティアスが中を覗き込んだ。 「なるほど。なかなか詰まっているな。ルーカス、上で待っていなさい」 「えっ! でも!」 「大丈夫だから」  マティアスにそう言われ、ルーカスは渋々階段を戻って行った。 「すみません、本当にお見せするような所じゃなかったですね……。あ、この箱、跨げますか?」  カイはそう言いつつ、マティアスに手を差し伸べた。 「構わないよ。成人してから特に整然とされた物しか見せられなくなったから実につまらない」  マティアスはカイの手を迷うことなく握り、芋の箱を跨いだ。  マティアスの手はカイよりは少し小さいがしっかりした骨が通った男の手だった。なのに肌が触れ合う感触にカイは胸が躍るような感覚を感じた。  しかしマティアスは小さく「ありがとう」と言ってすぐに手を離してしまい、カイは少し淋しく感じた。

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