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第二章 夏の庭②

「どれも良いな」  テーブルに広げた図案を眺めながらマティアスが微笑んだ。  マティアスは髪を邪魔そうに掻き上げ、右肩からまとめて前に流した。彼の白いうなじが晒され、カイはついそれをチラリと盗み見る。 「カイはどれが良いと思う?」  マティアスが上目遣いでカイを見つめて尋ねた。甘えるような目線だ。カイは思わず自身の顔が綻んでしまうのを感じた。 「どれも自信作です。ぜひ陛下のお好みを教えてください」 「あまり自分で服を選んだことがなくて……」  マティアスは少し困ったように再び図案へ視線を落とした。 「これは首ともから白い襟が覗くのだな。我が国の絹か?」 「そうです。下に着て頂くシャツの襟が覗くようになります。袖口からも同様です」 「産業のアピールするのは良い思う。……あとは、自分に何が似合うかが分からないよ」  マティアスは降参するかのように上体をあげた。そしてカイを再び見つめてくる。 「カイは、私にどれを着せたい?」  目の前の美しい男がそう言う。  『着せたい?』と聞かれると、『脱がせたい?』とも言われているような気分になってくる。  カイは心臓の鼓動が速くなるのを感じつつ図案を示した。 「私は……こちらの図案が気に入っております。こちらにも先程の白い襟を組み合わせても良いと思いますし、あと、フォルシュランドから持ってきた黒真珠のボタンがあるので、ぜひ陛下にお使い頂きたいです」 「真珠か。派手にならないか?」 「これ位の小さめなものなのでそれ程派手な印象にはならないと思いますよ」  カイは指先を摘むような形にして大きさを示すとマティアスはそれを見て頷いた。 「なら、それで行こう」 「ありがとうございます。では準備を進めます」  無事内容が決まり安堵する。テーブルに広げた図案を纏めて片付けているとマティアスが「あのさ、」と声をかけてきて、カイは「はい」と言い顔を上げた。 「まだ時間あるか? よかったらお茶に付き合ってくれないか」  艷やかな緑の瞳がこちらを見つめていた。  国王陛下が一介の仕立て屋をお茶に誘うなど普通なら考えられない。現にマティアスの言葉にルーカスかギョッと目を見張っている。しかし断るのは論外だ。 「大変光栄です。ぜひ」  カイは笑顔で答えた。

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