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第二章 夏の庭③
「ルーカス、ロッタに伝えてくれ。庭のガゼボに用意を頼む」
「しょ、承知いたしました」
ルーカスは動揺しつつ小走りに部屋を出て行った。出て行く際になんとなくカイを睨んで行ったように思った。
「ぜひ庭を見て行ってくれ。日向は少し暑いかもしれないがガゼボは涼しいよ」
マティアスはそう言って立ち上がり窓辺へと歩いて行くのでカイもその後に続いた。
サロン窓辺の小さな扉から外に出るとバルコニーから庭が一望できた。
「わあ。これはまた可愛らしい」
王の庭に対して『可愛らしい』は不味かったかと思ったが、素直なその感想が口から零れてしまった。
「ふふっ、そうだろう」
だがマティアスは嬉しそうに微笑んだ。
その庭は王城のものとは思えない田舎風の庭だった。
小さな小川には木製のアーチ状の橋が架けられ、その周りには野山の草木か生い茂り、所々に鮮やかな夏の花が咲いている。
「こっちだ」
マティアスに促され、バルコニーから伸びる階段から庭に降りた。
「豪華な庭は他にもあるのだが、私はここが一番好きなんだ」
土のままの小道をマティアスの後ろから歩きながら辺りを見渡す。
「懐かしい感じがしますね」
「本当か?!」
この庭を見て誰でが思いつくであろうごく普通の感想を述べたつもりだが、マティアスは驚いたように振り向いた。
「え、ええ。田舎の里山が見事に再現されてて。皆さんそうおっしゃいませんか」
カイがそう言うとマティアスはちょっと気まずそうに笑った。
「そうだな、大抵はそう思うか。この庭はあまり客を入れないから、人の感想を聞くことがなくて」
それはつまりマティアスのかなり私的な庭にカイは入れてもらっていると言うことだ。
(これって……もう落としたも同然じゃないか?)
マティアスはもうすっかりカイに惚れ込んでしまっているように思う。後は油断せずにより親密な関係を築いて行くことだ。
二人庭を眺めていると、ロッタを含むメイド三人が庭の奥のガゼボにお茶を持ってきた。
「カイ様。ようこそお越しくださいました。お茶の用意が整いましたので、こちらへどうぞ」
ロッタが笑顔で伝えに来た。カイは笑顔で礼を言うとマティアスと共にガゼボに入った。
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