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第二章 夏の庭④
蔦が絡みついたガゼボは陽を遮り、涼しい風だけが通る心地よい空間になっていた。
「さ、座って」
マティアスに促され、ガゼボ内に置かれたテーブルの一席を腰を下ろした。するとマティアスは向かいではなく斜め横の、ほぼカイの隣と言っていい席に付いた。二人で庭を眺めながらお茶をするにはちょうど良い位置とも言える。が、
(この地位だと手も繋げるし、キスだって出来てしまうだろ……)
これは暗に誘われているようにも思えてくる。むしろ手を出さないほうが失礼かもしれない。
そんなことを悶々と考えているとロッタがカップにお茶が注いでくれた。テーブルの上には素朴な焼き菓子等が並んでいる。
ロッタはお茶を注ぎ終えるとお辞儀だけし、メイド二人を従えそっとその場を去って行った。ガゼボに二人きりになったのかと思ったが、少し離れた場所にルーカスが待機していた。
(流石に二人きりにはさせてくれないか……)
カイは少し残念に思った。
「アルヴァンデールの昔ながらの菓子だ。食べてみてくれ」
「いただきます」
マティアスに進められ菓子を取る。一口食べると見た目からの想像通りの味で素直に美味しいと思った。「美味しいですね」等と感想を言いながら菓子とお茶を味わっていると、取り留めもなく突然マティアスが聞いてきた。
「……カイは、仕立て屋になる前はどうしてたのだ?」
確かアールグレーン家で働いて五年だと伝えた。カイの年齢からその前は何をしていたのか気になったのだろう。
(どうしようか。適当に嘘を付くか、それとも……)
マティアスと今後長い付き合いになった場合、嘘がどこかでバレればその段階で信用を失う事になる。カイは伝えられる限り事実を話そうと思った。
「そうですね……。陛下には幻滅されてしまいそうですが、フォルシュランド各地をフラフラしてまして……」
マティアスの顔を見ると驚くことは無く、真剣にカイの話を聞いている。
「ふ、フラフラと言うと?」
「行く当てがなくて森で過ごしていた事もあります。洞窟で寝起きして樹の実や野草を採ったり。いつだったか賊に襲われまして、なんとか倒したら武器や色々な道具が一式手に入って、それからは獣も狩れるようになって、生活が少し楽になりました」
つらい過去ではあるが懐かしいとも思いながら語っていたが、マティアスを見ると、手で口を押さえ目に涙を溜めていた。
「あ、陛下っ、すみません! お茶にお誘い頂いたのにこんな野蛮な話をっ」
カイは慌ててマティアスに詫びた。
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