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第二章 疑惑①

 八月に入り、カイは再び王城に居た。今日の目的は採寸だ。カイは前回と同じサロンでマティアスを待っていた。  前回の打ち合わせでカイがお茶にまで誘われた事をヨエルは大いに喜んだがカイの心境は複雑だった。  マティアスは明らかにカイに好意がある。そしてカイもまたマティアスに強く惹かれていた。しかしカイの想いをマティアスは『国王への媚びへつらい』だと思っているらしい。 (ただ『好きだ』『愛してる』と言った所で余計嘘くさいか……)  出会ったばかりなのにこれ程までマティアスに惹かれる理由がカイ自身よくわからない。ただマティアスが時折見せる子供のような甘えた表情。カイはそれが可愛くて仕方なかった。  通常のマティアスは国王としての皮を被っているが、時折その皮が剥がれ中身が垣間見える。本当はもっと誰かに甘えたいのではないだろうか。 (その甘えられる相手に、俺がなれたら……) 「早いな」  そう悶々と考えているとはマティアスがサロンに入ってきた。まだ約束の時間より少し早い。いつも通りルーカスも付いてきた。 「陛下。本日もどうぞ宜しくお願い致します」 「今日は採寸だったな。このままでよいか?」  マティアスはいつもの黒衣を纏っていた。髪は採寸の邪魔にならないようにか一つに束ねられている。 「上着だけ脱いでいただければ大丈夫です」  そのまま流れで採寸を始める事にした。カイは「失礼します」と声をかけ、マティアスの上着を脱がす。脱がした瞬間、柑橘系の香油の香りにマティアス本人の香りが混じり、実に官能的にカイの鼻孔を刺激してきた。  いつも客には何も感じないのだが、相手がマティアスだと思うとカイは余計に意識してしまう。  上着を脱ぎ簡素な白いシャツと黒のズボンだけになったマティアスの胸にペンダントが下がっていることにカイは気付いた。木でできた楕円形のトップが革紐により首から下げられている。それは国王が身につけるには余りに不釣り合いな代物だった。 「あ、邪魔になるな。はずそう」  カイの視線に気付いたマティアスがそのペンダントを外した。 「木彫りですか」  カイは気になり世間話のつもりで尋ねた。 「ああ、男鹿が彫ってあるんだ」  マティアスはそう言ってペンダントを見せてくれた。  木彫りの男鹿がこちらを見ている。  その彫刻は職人が彫ったものでは無いとカイにはわかった。素人にしては上手いと言うレベルだ。それを国王と言う地位のマティアスは肌身離さず持っている。 つまりはマティアスにとって大事な人が彫ったものではないか……。 (肉親か、友人か、はたまた……) 「優しそうな鹿ですね」  胸の奥底にジワッと湧く黒い何かを無視して、カイは当たり障りない感想を述べた。  マティアスは嬉しそうに微笑み、そのペンダントを丁寧にテーブルの端に置いた。

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