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第二章 疑惑②
カイの中で様々な感情が渦巻く中、マティアスの採寸を始めた。互いの体温を感じる程の近さ。うっかり気を抜くと数字を間違えてしまいそうだ。
マティアスは意外と鍛えているようで、胸囲が予想よりありカイは内心驚いた。それに比べて腰回りはかなり細いが。
邪な気持ちを飲み込み、時折「腕を上げてください」とか「失礼」などと声をかけつつも黙々と作業を進める様子を赤髪のルーカスはじっと見つめている。監視していると言ったほうが正しい。大事な主に不届きな行いをするなら容赦しないと目が言っていた。
採寸が中程まで進んだ頃。
「陛下、失礼致します!」
ノックも無しに突然サロンに二人の中年の男が入ってきた。
「何事ですか! 今は陛下の私的な時間です!」
透かさず番犬のように吠えるルーカスをマティアスが「よい」と制し、無礼な二人に話しかけた。
「如何されましたか? 司祭殿。それからクレモラ卿まで」
白い服を纏った司祭らしき男は、太った身体を極力小さくしオドオドしながら言った。
「と、突然、申し訳ございません、陛下。く、クレモラ公爵が、どうしても確認すべきだとおっしゃられて……わ、私はそんなわけ無いと思っておりますがっ!」
その司祭の横に立つ派手な服を纏った貴族らしき男も口を開いた。
「わ、私とて陛下を疑っているわけではございません! 陛下の潔白を証明する為に参った次第ですからっ」
はっきり要件を言わない二人にマティアスが眉を寄せ、低い声で言い放った。
「私に何の疑いがあるというのです? はっきり申されよ」
カイは初めてマティアスの王としての威圧を感じた。ビリビリと肌に逆らえない威厳を感じる。その気迫に司祭がすくみ上がり、ハンカチで流れる汗を拭いながら必死に口を開いた。
「へ、陛下が……魔物と話しているのを見たと言う情報がありまして……そ、そうなんですよね、クレモラ公爵っ」
司祭は自分からの情報では無いと言いたいようでクレモラ公爵に説明を投げた。投げられたクレモラ公爵は苦虫を噛み潰したような顔をしながら説明した。
「何年か前にこの城で働いていたという者からの情報で、陛下が赤い髪の魔物と話していたのを見たと。もしも、もしもですが、王ともあろう御方が魔物と契約でもしていたら一大事です! ですが、契約すれば必ず身体の何処かに契約の印が刻まれる。ええ、私は陛下の身の潔白を証明しようと司祭殿と共に急ぎ確認に参ったのです」
クレモラ公爵が手を揉みながら、さも味方のようにマティアスに媚びている。しかし明らかに疑っているのはこのクレモラ公爵だとカイは感じた。
「へ、陛下にお身体を晒せと言うのか! ありえない!」
再びルーカスが吠えた。
カイは初めてルーカスに心から同意した。
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