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第二章 疑惑③
マティアスは大きく深呼吸し口を開いた。
「アルヴァンデール国王としてそのような疑いをかけられているのは実に心外だ。刻印など無いことを確認していただきましょう」
「マティアス様っ!」
カイは思わず叫んでしまった。
カイはただの仕立て屋だ。国王、司祭、公爵の三人が話す場に口を挟めるような立場では無い。それでも黙っていることができなかった。
マティアスは司祭と公爵に向けていた冷たい視線を和らげカイを見た。
「大丈夫だ。カイ、手を貸してくれるか。疑っている者たちに触れられたくないんでね」
マティアスは柔らかでありながら棘のある言葉で二人を牽制し、そしてルーカスを見た。
「ルーカス、外に出ていなさい」
「しかし!」
「大丈夫だから。部屋の前で待機だ。何かあれば呼ぶ」
マティアスに笑顔で言われたルーカスは目に涙を溜め頭を下げると部屋を出て行った。
それを見送ったマティアスは司祭とクレモラ公爵を見て冷たい声色で言った。
「さっさと終わらせましょう」
「で、では上から順に行きましょう。ええっと……あの椅子をお借りして……」
司祭は先程までカイが座っていたソファの横にある一人掛けのソファを示した。カイはそれを三人の前に運び、マティアスを座らせた。
「お、御髪 から失礼します」
司祭が躊躇いながらクレモラ公爵に確認する。
「頭皮に刻印があった例もありますからな」
クレモラ公爵が鼻息荒く言った。『絶対に見つけてやる』と言う意気込みを感じる。
カイはマティアスからの指示を待つことなくその金の髪に触れ、髪を一つに束ねていた革紐を解いた。絶対にこの二人には触らせたくなかったからだがマティアスもそれが当然のように何も言わずカイに任せてくれた。
「どこからでもどうぞ」
マティアスが呆れたような声で言い、頭を差し出すように前に下げた。
カイは金の髪を掻き上げるように頭皮を晒す。その美しい金糸はサラサラと指の間を滑っていく。ずっと触っていたい触り心地だった。
「もっと、こうっ!」
クレモラ公爵の手がマティアスの髪に触れようとした時、カイはとっさにその手首を掴んだ。
「なっ!」
平民に突然手首を強く掴まれた公爵はカイをきつく睨んだ。しかしカイも引かず睨み返す。
「確認したい所があればおっしゃってください」
低く威嚇するように言うとマティアスが微かに笑ったようで、その肩が少し揺れた。
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