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第二章 疑惑④

 端から順に髪を掻き分け、司祭と公爵が確認していくがマティアスの頭皮は実に綺麗なものだった。 「頭にはございませんね」  司祭が言う。クレモラ公爵は残念そうしながら「次はお顔を確認させて頂きます」と言った。  マティアスの瞳は間近で見ると本当に美しかった。宝石を嵌め込んたような澄んだ緑で吸い込まれそうだ。それを縁取る睫毛も金色で。  それをクレモラ公爵は「白目に刻印があるかもしれない」と言い、カイにマティアスな瞼を引き上げさせ、さらにマティアスに眼球を上下左右に動かさせた。  結局目にも刻印は無く、耳や鼻の穴まで確かめ、遂に口の中を開かせた。  マティアスに「あー」っと大きく口を開かせ、綺麗な白い歯が並び、中央に赤い舌が鎮座しているその空洞を中年男が二人で覗き込む。 「舌を上げていただけますか」  クレモラ公爵が依頼し、マティアスは従い舌の裏も見せる。さらに上を向かせ上顎や喉の奥まで覗き込まれ、カイは腹の内側からどんどんと怒りが増していくのを感じた。 「口の中にも無いようですな」  司祭がそう言い、マティアスは口を閉じた。  口を開けたままで苦しかったのか、マティアスは微かに溜息をついた。さらに襟足に微かに汗をかいている。 「それでは陛下、上からお召し物を脱いで頂けますか」  諦められないクレモラ公爵が言ってきた。  マティアスはカイに視線を向け、首の後ろを示し、背開きのシャツを脱がすように指示してきた。不本意ではあるが、手伝わない訳にはいかない。  カイは金の髪をよけ、首の後ろに付いているボタンに指をかけた。一つ二つと外していくにつれ、マティアスの白くきめ細かな肌が露になっていく。  カイが全てのボタンを外し終えるとマティアスは実に男らしくシャツを脱ぎ捨て、上半身を晒した。さらにそのまま下肢の被服にも手をかけた。 「へ、陛下っ、順々で結構でございますっ!」  司祭が汗を滝のように流しながら止めた。しかしマティアスはそのまま脱ぎ続ける。 「生娘でもあるまし。もう面倒だ」  なんてことは無いように淡々と服を脱ぎ、生まれたままの姿になったマティアスは司祭とクレモラ公爵に向かって両手を広げた。 「さぁ、刻印があるかご確認ください」 「ああ、なんと恐れ多い……っ!」  司祭は両手で顔を覆って跪いたが、クレモラ公爵はマティアスの前に歩み出た。そしてギラつく両方の眼を開く。そこには『何としても刻印を見つけたい!』と言う執念を感じた。  カイも負けじとマティアスに歩み寄った。そして司祭に向かって強く言った。 「司祭様もしっかりご確認くださいっ! 確認される方が一人では正しく真実が伝えられません!」  その言葉にクレモラ公爵はカイを強く睨み、司祭はオロオロと顔をあげた。  マティアスが堂々としているならば、それこそ女にするような気遣いはむしろ失礼だとカイは悟った。

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