130 / 153

第二章 疑惑⑤

 魔物との刻印を見つけようとクレモラ公爵の視線がマティアスの素肌を這い回る中、カイは髪を上げるのを手伝ったり、臍を開いて見せたり、足の指を広げたりとマティアスに触れる役割をこなしながら、第三者の目としても刻印が無いことを一緒に確かめた。  マティアスの美しい肉体を目の前にし、さらに胸や股間が目に映ると気持ちがざわついてしまいそうなったが、カイは必死に『確認』という行為だけに意識を集中させた。 「こ、刻印はありませんな……陛下は潔白です」  司祭が止まらない汗を拭きながら言った。  カイはすぐさま持っていた荷物から大きな布を出し、マティアスの身体に掛けた。マティアスがカイをチラリと見て微笑んだがその顔には疲労が感じられた。 「ま、股……」  クレモラ公爵が血走った目で呟いた。 「まだ、ま、股の間を……確認しておりません」  その言葉に司祭はあんぐりと口を開けたまま固まった。  カイは頭の血管がキレる音が聴こえた気がした。そして己の立場も忘れてクレモラ公爵に怒鳴りつけた。 「寝所を共にする相手がいればすぐに見つかってしまうような場所に契約の刻印が付くわけがないっ! もういい加減諦めよ!」 「し、仕立て屋風情が知った口を利くな! そ、そうだ! だから陛下は妃を娶らないのではないか?!」  クレモラ公爵が唾を飛ばしながら怒鳴りつける。マティアスに対するあまりの無礼にカイは頭が沸騰してきた。 「クレモラ卿、それに司祭殿。あとカイも。よく確認なさい」  カイの興奮とは打って変わり、マティアスは至極冷静な声色でそう述べると、布を被ったまま一人掛けのソファに腰を下ろし、左足だけをソファの上に掛け、三人に向かって大きく脚を開いて見せた。  真っ白な内腿の間に、マティアスの淡い薄紅色の男性器と、さらにその奥にある同じ色の排泄器官。そこは染み一つ無く滑らかで刻印など無かった。 「へ、陛下……。確認致しました。刻印はございません……」  もはや気を失いそうなほど憔悴しきってきる司祭が声を絞り出し宣言した。  マティアスは布で身体を隠すと立ち上がりクレモラ公爵に向かって言った。 「私が妃を娶らないのは、バルヴィアに送る生贄を作りたくないからです。火焔石を使わなければ『黒霧の厄災』は起こらない可能性が高い。贅沢の為に死ぬのは母と叔父で最後です」  クレモラ公爵は俯き、悔しそうに歯をギリッと鳴らした。 「へ、陛下っ! 大変な無礼を! 陛下の潔白は証明されました! 我々はこれで失礼致します!」  司祭はそう言うとクレモラ公爵に「さあ! 行きましょう!」と言って公爵を引きずるようにサロンを出て行った。

ともだちにシェアしよう!