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第二章 強く弱い人①

 カイが工房に戻った時、すでに陽が沈みかけ辺りは薄暗くなり始めていた。 「随分遅かったじゃないか。遂にか? ん?」  ヨエルがニヤニヤと尋ねてきた。 「そんなんじゃない」  カイは深く溜息をつき応接ソファにヘロヘロと座ると、ニーナも「おかえりー」と言いながら工房に入って来た。 「陛下の反対勢力らしい貴族が乱入してきてさ、司祭も合わせて陛下に尋問を始めて。なぜか流れで俺も同席する事になって……まあ、とにかく大変だった。しかも採寸全部終わらなかったし」 「そりゃまたなんか凄いな」 「あら、大変だったのね」  兄妹二人が驚きの表情を見せる。そしてニーナが思い当たったように言った。 「陛下って国民に大人気だけど、一部では反対してる人もいるって聞いたことあるよ。火焔石の使用禁止は厳しすぎるって」 「今日来た貴族は多分その勢力だ。陛下は自分が独身なのは『バルヴィアに送る生贄を作りたくないから』って言ってたけど、厄災が起こったらやっぱり王族が陣頭指揮を執らないといけないってことか?」  『黒霧の厄災』についてあまり詳しいことは知らないカイは疑問に思い聞いた。通常の戦と同じに考えれば王が指揮を執るのは当然ではあるが、最前線に行くのはおかしい。 「『黒霧の厄災』って、鎮められるのはアルヴァンデール王家で魔力を持った方だけなのよ。他の兵士や魔術師は行かないの。と言うか王族以外は毒霧で死んでしまうから行けないんですって。それで前回は王子と王女の二人が戦って鎮めたけど、殉死されて。現在は陛下以外に、サムエル殿下とそのお子さんが三人いるけど魔力は無いらしくて、実質、今魔力がある王家の人間は陛下だけなのよ」  それを聞いてカイは全身の血が下がるような気がした。 「ちょっと待て! じゃあ、もしも今『黒霧の厄災』が起こったら……マティアス様が一人でバルヴィア山へ行くってことなのか?!」  カイは思わず声を荒げた。ニーナとヨエルが驚いたようにカイを見る。 「そ、そう言うことだよね……。でもお一人では無理だと言われてる。前回が二人でやっとって感じだったから……」  と言うことは、今もし『黒霧の厄災』が起これば、マティアス一人で立ち向かってもマティアスは死に、厄災を鎮める事も出来ないと言うことだ。  そんなこの状況で、火焔石を使わせろと圧力をかけてくる貴族の気が知れない。  マティアスはそんな貴族達に囲まれ日々過ごしているのかと思うと、カイにはやり場の無い怒りが沸々と湧いてきた。

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