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第二章 強く弱い人②*
その夜、カイは寝付けずにいた。
色々な情報が頭をぐるぐると巡る。
確認してみたところ前回の『黒霧の厄災』からもう二十年経っていた。その前が三十二年前。もしも同じくらい、もしくはもっと早く次の厄災が起こってしまったら……。
(あの人は一人で山へ行くのか……?)
それを考えると底しれぬ恐怖心が襲ってくる。
もしもそんな事になったら、マティアスを攫ってこの国から逃げ出したいとさえ思う。
つい数時間前にカイの胸に抱かれ震えながら泣いていたマティアスの姿が浮んだ。
あの後だいぶ長い間マティアスはカイの胸の中に居た。
夏の午後。カイは暑いと感じていたが、マティアスは血の気が引いて冷たかったし、何より甘えられていることに強い喜びを感じていた。
しばらくして、すっかり体温が戻ったマティアスがカイの胸から顔を上げた。
「すまない。なんだか……すっきりした……」
そう言って恥ずかしそう俯き、「暑いな……」と言って被っていた布を胸元でパタパタと揺らした。
真っ白だった肌は血色が戻り、薔薇色に染まっていた。
全裸に布を一枚巻いただけの姿だ。あおいだ胸元から色濃く染まった胸の飾りが見えてしまい、カイはさらに身体が熱くなるのを感じて焦った。
ロッタを呼んでくると言ってその場を離れ、ロッタが来た後は挨拶だけしてそそくさと逃げるように帰ってきてしまった。
魔物との契約の印が無いか確認している間は、とにかく色めいた感情は持たないよう気を張っていた。だが、今こうして一人寝台で眠れない夜を過ごしていると、つい思い浮かんでしまう。
その身体はまるで芸術作品のようだった。
間近でみた緑の瞳はまさに宝石。
唇や舌は柔らかで瑞々しい赤。
白い肌は滑らかで、しかし女っぽいわけではない。浮き出た筋肉は男そのものだが無駄な贅肉など無く、体毛も薄く、どこか艶かしい。
そして、『カイも。よく確認なさい』と言われ見せられた一番隠すべき場所……。
カイは股間が熱くなっているのに気付いた。
あんな酷い目に遭って、日々敵に囲まれ苦しんでいる人に対して欲情するなんて、己は最低だとカイは思った。最低だと思うがこのままでは眠れそうもない。
カイは己の欲望の塊を握り込んだ。
「っ……」
息を殺しソレを扱く。
頭にはマティアスの美しい裸体が浮かんでいた。
昼間の記憶をなぞり快楽を追ううちに、なぜか
大きな浴場に置かれたラタン製のソファでマティアスを犯すイメージにすり替わっていた。
マティアスも自分も全裸だ。
大きく開かせた脚の間に自身の巨塊を咥えこませ深く深く犯し、さらに胸の小さな粒を舐めて、吸い、舌で嬲った。広い浴場内に響き渡るマティアスの艶めかしい喘ぎ声。
その鮮明過ぎる妄想に浸り、カイは精を吐き出した。
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