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第二章 知らない男②
「カイ……? そこ測るの三回目な気がするのだが……」
マティアスが躊躇いがちに言ってきた時、カイはマティアス左手首を測っていた。
「えっ、あ! 申し訳ございません」
数値を記入している手帳を確認する。確かに既に記入されていた。
「ふふ、大丈夫だよ。今日はもう予定も無いし、ゆっくりやろう」
マティアスの優しい声色が響く。
外は雨が降り始めていた。
来て早々に『お茶をしていけ』と言われ、採寸の間にロッタがサロンのテーブルにお茶や菓子を並べていた。ルーカスはいつも通りサロンの隅でカイを見張っている。
「もう全て終わりました。失礼致しました」
床にしゃがみ、道具などを片付けていると、マティアスもしゃがみカイの顔を覗き込んできた。
「どこか具合が悪いんじゃないか?」
小首を傾げて心配そうにカイの頬に触れる。
「熱は無さそうだが……夏風邪かな? 治癒魔法をかけてみようか」
マティアスの柔らかな手のひらが頬を撫でる。
しかしその優しい言葉も心配そうに見つめる瞳も、自分に向けられている訳では無いと思うとカイは胸がギシギシと痛んだ。
「大丈夫です。体調は悪くありません」
カイはそう言ってマティアスの手首を軽く掴むと頬から手を外させた。
「そうか……」
そのままカイは道具を鞄にしまい込んで立ち上がると、マティアスが棒立ちになって不安そうにこちらを見ていた。
「申し訳ございません。順序が逆でしたね」
そう言って、マティアスの黒い上着を取りマティアスに着せようとした。
「いや、そんな事はどうでも良いんだが……」
マティアスはカイの持った上着に腕を通しつつ小さく呟いた。
上着の袖を通しカイの方を向いたマティアスの胸に、あの木製のペンダントが掛かっている。カイはマティアスの上着のボタンを留める手を止め、それを見つめた。
「……こんな木で出来た玩具の様な物、なぜ身に付けてらっしゃるのです?」
その言葉はするりとカイの口から漏れ出た。
カイの言葉にマティアスは目を見開き、そして、激怒……するとかと思ったが、フワリと優しげな笑顔を浮かべた。
「何を言う。素晴らしい出来だろう?」
その表情にカイは確信した。
――言ってはいけない。
――これ以上踏み込んではいけない。
――これ以上知ったら冷静ではいられない。
わかっているのに聞かずにはいられなかった。
「……これは、貴方の騎士が作ったのですね」
カイの言葉にマティアスは緑の目を大きく見開いた。
「な、何故……知ってる?」
マティアスのその言葉に、カイの『違っていて欲しい』と言うかすかな希望は打ち砕かれた。
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