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第二章 知らない男③
「先程のクレモラ公爵とサムエル殿下にお会いしたのです。それでサムエル殿下が、私の事を『陛下の騎士に似ている』とおっしゃられて」
カイは自分でも驚くほどスルスルと経緯を口に乗せていた。
「その方は陛下が子供の頃から騎士になさると宣言されていたそうですね。しかしもう亡くなられたともお聞きしました」
マティアスはフッとカイから目をそらし、視線を床に落とした。『知られたくない』『知られたらマズい』と言う意識を感じ、カイは頭にどんどん血が上っていく感覚がした。
「ハッ、ハハ、言ってくれれば良かったのに」
カイから乾いた笑いが漏れた。
マティアスの顔は強張り、異常な空気感を感じ取ったルーカスがこちらを凝視している。
「別に俺自身を気に入っていた訳じゃないのだから、お茶とかそんな回りくどい事したなくても、昔の男の代わりをしろと言ってくだされば良かったのですよ。貴方は王なのだから、崖っぷちの仕立て屋なんて、どんなことでも従いますよ」
「そ、そんなつもりではっ」
マティアスが焦ったように視線をカイに戻して来た。
「でも、抱かれていたのでしょう? その男に」
確信があったわけでは無い。
それはあの地下倉庫でのキスからの予想で、半分はハッタリだった。
しかし、マティアスは緑の瞳を泣きそうなほど潤ませ、顔を真っ赤に染めた。
「き、貴様っ! 陛下になんて無礼な事をっ!」
それまで黙ってマティアスの背後に控えていたルーカスが怒り吠えた。カイはルーカスを一瞥するとマティアスに視線を戻した。そして、一歩マティアスに近づき、その赤く熟れたような頰を撫で、わざと冷笑を浮かべて囁いた。
「陛下、お望みとあればその男の代わりに貴方のお相手も努めますよ?」
「貴様っ! 陛下から離れろ!」
ルーカスが駆け寄りながらサーベルを抜きカイの喉元に突きつけた。子供だと馬鹿にしていたがなかなかな腕前だと感じた。
「……ルーカス。剣を納めなさい」
そんなルーカスにマティアスが静かに言った。
「陛下っ! こんな下劣な者からお離れくださいっ!」
ルーカスはサーベルをカイに突きつけたまま興奮気味に叫ぶ。カイはその様子を冷めた目で見ていた。
「ルーカス……。しばらく席を外してくれ。自室で待機していなさい」
マティアスはルーカスに視線を合わせずに言った。その言葉にルーカスは「信じられない」と言わんばかりに目を見開き硬直した。
「陛下! いけませんっ! そんな……」
「ルーカス。……命令だ」
マティアスのとどめの一言にルーカスはギリリと歯を食いしばり、震える手でカイに突き付けていたサーベルを腰に納めると、真っ赤に目を染め一礼してから早足でサロンを出て行った。
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