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第二章 後悔と迷い②

 それから数日経っても城からのお咎めは特に無く、ニーナの予想が正しいと思われた。それによりヨエルも幾分か怒りを納めつつある。  確かにあの日、マティアスは動揺するカイに「魔術師に治癒させるから大丈夫」と言って帰るよう指示していた。  カイにとっては自分が罪に問われるかどうかより、マティアスからの好意が自分に向けられていなかったショックと、それにより暴走してマティアスを傷つけてしまったショックが大きく、自身への刑罰やアールグレーン兄妹の事まで頭が回らなかった。  この国に来てからカイはヨエルとニーナを振り回してしまっている。良いことも悪いこともだ。今回の事態は最悪だと言っていい。妹まで危険に晒されたヨエルが激怒するのは当然だった。  それでもここに置いてくれている二人には感謝しかない。  幸い、ここに来て注文は増えつつあった。カイがマティアス用に描いた膨大なラフから、今回使われなかったものを他の貴族へ提案したからだ。それがかなり好評でフォルシュランドでの人気に近いものを感じていた。  そして、予定通りマティアス用の衣装も着々と制作が進められ、仮縫いの為、再び城へ赴くことになった。  本来ならばカイが出向いて謝罪すべきではあるが、カイは冷静で要られる自信が無く、今回はヨエルが一人で行くことになった。  ヨエルが城へ向かった日、カイは工房で黙々と作業を進め、ニーナも針仕事を手伝っていた。 「……兄さんに行かせて良かったの?」  手元から目を離さず作業をしながらニーナが聞いてきた。 「なぜ?」  カイもまた生地に印を付けながら聞き返した。 「だってせっかく気合入れて作ってるんだから、自分で確認したいんじゃない?」  確かにその通りだった。  仮縫いは本人の身体を使って補正をしていく。採寸したとしても、微妙なラインやシワの出来方は数値ではわからない。それを取り除いていく作業だ。真実を知る前ならば、きっとそれはとても楽しい時間になったことだろう。 「ヨエルの腕は確かだよ」 「それは、そうだけど……」  なんだかんだで職人としてはカイはまだまだヨエルには敵わない。だからこれが最善なのだとカイは思うようにしていた。 「……カイって、情熱的だったんだね。知らなかった」 「……俺も知らなかった」 「なにそれ」  ニーナがくすくす笑った。  二人とも手を動かし、まるでそれぞれの独り言の様な会話だ。 「カイって、フラフラ遊んでて、でも誰にも本気にならなくて。それなら私が家族になって、ちょっとだけ特別になれれば良いなって思ってたけど……」  ニーナの言葉にカイは手を止めて顔を上げた。  ニーナはカイに目を合わせず針仕事を続けている。 「あのマティアス陛下相手じゃ……完敗だね」  ニーナの声が涙声になった。  今のカイには叶わない恋の辛さは痛いほど理解できた。  マティアスが死んだ騎士を想う強さを考えると、カイ本人を好きになってくれるなどきっと無い。だったらニーナに甘えてしまえば楽になれるだろう。しかし誰かの代わりにされる程辛いものは無いことも分かっていた。 「……ごめん。でもヨエルもニーナも俺にとって大切な人だ」  カイは心からそう思い、その思いを口に乗せた。 「うん、もうとっくに私たち三人で家族だね」  ニーナは涙を拭い、笑顔をカイに向けた。

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