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第二章 後悔と迷い③

 まだ陽が出ている時間にヨエルは工房に戻り、カイは早々にヨエルから状況を聞いた。 「カイが気にしていたウエストの細さは概ねカイが引いた線通りで自然にカモフラージュ出来てた。少し調整はしたけど」  カイは仮縫いの生地を見ながら確認した。 「ああ。ありがとう」  ヨエルには『国王として華奢に見えるのは良くない』ともっともらしいことを言ったが、本音は他の者にあの腰の細さを知られたくなかったからだ。  背中から細い腰を抱き、柔らかな尻の谷間を突き上げた光景が、甘さと苦さを併せ持って蘇る。  一通り確認作業を終え、ヨエルが付け加えるように言った。 「……あからさまにガッカリされたよ」  カイは無言でヨエルを見た。 「『カイは?』って聞かれてさ、『大変な無礼を働いたそうで、雇い主として私が謝罪に』って言ったら『無礼など何も無かった。私が命じたことだ』って」  カイは目線をそらした。そんなカイを見ながらヨエルが大袈裟に溜息をつく。 「はぁ~、うらやまし。間近で見ると本当に美しい人だよな。あんな人とお茶どころか、それ以上までしたのかと思うと本当に腹が立ってくるよ。別に過去の男の代わりでもよくないか? 今生きている人間の中ではきっと一番好かれてるよ」  ヨエルがからかい半分で言ってきた。  カイは何も言えず黙り込むだけだった。  仮縫いでの確認も終わり、本縫いに入った。  ヨエルとニーナが『手伝おう』と言ってこなかったのを良いことにカイはほぼ一人で仕立て、通常ひと月以上はかかるところを他の案件と並行しつつ三週間で仕上げた。  マティアスの誕生日まであと半月となった九月中旬。その衣装は無事完成した。  完成してから城に納品するまでの数日間、カイは工房に飾ったそれを暇さえあればずっと眺めていた。  ヨエルやニーナも認めるまさにカイにとっての最高傑作だ。  黒をメインにしたことでかえってラインの美しさが際立ち、襟と袖から覗く真っ白なシルクのシャツも黒との対比でより輝いて見えた。黒真珠のボタンも淡く上品な輝きを魅せる。さらに裏地には濃い緑の生地を使用した。きっとマティアスの動きに合わせて時折垣間見えることだろう。  これを着たマティアスを見たい。  カイは強く思った。  だが、やはり面と向かって会う勇気が無い。  あの人に愛されているのは自分ではないと言う苦しさを実感させられたくなかった。  カイは上着の内側にひっそりとあるものを付けていた。左脇の腰骨あたりの位置に邪魔にならないように付けた飾り。金色の細く短い鎖で吊り下げられたそれは二粒の緑色のビーズ。  地下倉庫でマティアスの頭上にから降り注いだマティアスの瞳と同じ色のあのガラス製ビーズだった。  カイはあの時のマティアスの唇の感触を記憶の中で何度もなぞっていた。

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