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第二章 後悔と迷い④

 結局、納品にもカイは行かずヨエルが出向いた。  カイはもうマティアスには会わない方がいいと考えていた。  会えば想いが溢れ、またとんでもないことをしでかすのではないかと思うと、とてもじゃないが城へ入ることなどできない。  マティアスが試着しそれを最終確認してきたヨエルは「素晴らしかった! 誕生祭以降はきっと注文が殺到するぞ!」と興奮気味に語った。  ヨエルに評価された嬉しさと、重大な仕事を終えられた安心感。だが、自分もマティアスが着た姿を見たかったという悔しさがカイの胸の中で混ざり合っていた。  マティアスの誕生日を一週間後に控えた九月二十五日。工房にロッタがやってきた。 「今日はこれをお届けに参りました」  応接用ソファに座ったロッタはカイとヨエルの前に三通の封筒を差し出した。 「陛下が是非、皆様にもお越しいただきたいと」  王家の紋が封蝋に押された白い封筒は誕生日祝賀会への招待状だった。 「ま、まさか仕立て屋の我々がですか?! しかもニーナにまで!」  ヨエルが動揺している。仕立て屋ごときが国王主催のパーティーに招待されるなど通常は考えられないことでカイも驚いた。 「お仕立て頂いた服、城内でも大変好評です。当日は是非色々な方とお話になってください」  つまりはパーティーで『陛下のお召し物は我々が仕立てました』と言って良いということだ。これ以上の営業チャンスは無い。 「なんたる光栄! ありがとうございます!」  ヨエルは興奮気味に言った。 「カイ様も、是非いらっしゃってくださいね」  ロッタがカイに念押しするように言ってきた。カイは迷いながらも口を開いた。 「ロッタ様。私は……陛下にお会いすることなどもうできません。私が陛下に何をしたか、ロッタ様はご存知ですよね?」  ロッタは一旦目を伏せ、そしてカイを見た。 「私個人としては……あの件に関して貴方を許すことはできません」  初めて見るロッタの鋭い目線。  カイはロッタがそう思うのは当然だと思った。 「でも、陛下が完全に許してしまっているんですもの。それ以上何も言えませんわ。むしろ酷いことをされたとも思っておられないようですよ」  ロッタはそう言うとカイに困ったような笑顔を見せた。  そして何気なく言葉を続けた。 「私、実は陛下の従姉弟なんです」 「えっ!」  そう笑顔で言ったロッタにカイとヨエルが揃って声を上げた。

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