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第二章 誕生日と輝飛竜②

 ヨエルとは対照的にカイは自身がどんどん緊張していってると感じた。  この一週間は、普通なら間に合わない衣装作りに没頭していて、この祝賀会に行くか行くまいかを悩む余裕が無かった。しかし、『とりあえず』のつもりで作った衣装が出来てしまえば行かざるを得ない。ヨエルからは「今更行かないとか言わないでくれよ? 妹と二人でお揃いだなんて恥ずかしすぎるよ」と釘を差された。  で、結局今ここにいる。  何の覚悟も無いままに。  誕生日祝賀会が開かれている大広間は、カイが通っていたサロンの十倍は有りそうな広い空間だった。そこに貴族の紳士淑女がわらわらと入り、踊り、談笑している。  窓からは広い庭が見えた。噴水を中心にシンメトリーに整えられ、秋薔薇が咲き誇っている。以前マティアスが「豪華な庭は他にもある」と言っていた庭の一つだろうとカイは思った。 (こっちがマティアス様の表の顔ってことか……)  四角四面に整えられ、威勢を張り、人々を導く立場。でも本当は小川の(ほとり)でひっそりと風に揺れる野草のように穏やかに過ごしたいのであろう。  カイは自身の胸の中で泣いていたマティアスの姿を思い起こしていた。  その時、周囲の人々がざわつきだした。  人々が視線を向けている方向を見ると、人垣の合い間にひときわ輝く金の髪がチラチラと見えた。  その金の髪を持つ人物は玉座が据えられた壇上に上がり控えめながら周囲に手を振り、会場からは大きな拍手が起こった。 「陛下はいつ見ても麗しいわね」 「それに今日のお召し物、素敵じゃない? いつも通り黒なのに」 「そうよね。もっと近くで拝見したいわ」  近くに居た婦人二人がそう話しているのを聞いて、ヨエルがカイの肩を叩きニッと笑った。遠目に見ただけでもカイの作った衣装を身に纏ったマティアスは美しいと思った。  すぐに玉座の前にはマティアスへ祝辞を述べる人々が列を作り始めた。 「僕達も並ぼう!」  ヨエルがそう言ってずんずんと突き進む。 「えっ、ちょっと!」  カイはマティアスを遠目にでも見られれば良いと思っていた。立ち止まるカイの背中をニーナが「ほら、行くよ!」と言って押す。  戸惑いつつもカイは列に並んでしまった。 「ふ、二人で挨拶してきてくれよっ」  列に並びつつもカイは決意が固まらず、小声でヨエルとニーナに訴えた。 「カイ、城まで来てそれは無いだろ? 男なら覚悟決めろよ」 「そーよそーよ」  カイの訴えを兄妹は取り合ってはくれない。  カイ自身も分かってはいた。  国王陛下直々に招待状を貰ったのだ。挨拶をしないなんてあり得ない。

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