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第二章 誕生日と輝飛竜③
覚悟が定まらない間にも列はぐんぐん短くなる。並ぶ人は多いが、一言ぐらいしか言葉を交わしてないようで流れが想像より早い。
玉座との距離を確認したくなりカイが目線を上げた時、想像よりマティアスの姿が近くにあって驚いた。そして一瞬見るつもりだったのにその姿に目が離せなくなった。
玉座の前に立った状態で賓客たちの挨拶に応じているマティアス。カイが全身全霊を込めて作った衣装は、カイの想定通り、いやそれ以上にマティアスを輝かせていた。
ゆったりと一本に編まれた髪が胸に垂らされ、黒の衣装を背景に輝いている。あの髪型にしようと言ったのはロッタだろうか。そこまでしなくていいのに、とカイは思った。マティアスの魅力がより引き出されて、ここにいる全員がマティアスを好きになってしまいそうだ。
ふと、客と客の合い間で視線を上げたマティアスがこちらを見た。マティアスはカイに気づいたようで驚いたような表情を浮かべ、そして花がほころび咲くようにふわりと笑顔を浮かべた。頰や目元も薄紅色に染まっていく。笑顔だが少し泣き出しそうな顔だ。それまでの客達に向けていた笑顔とは明らかに違っていた。
「わお……。カイにはそんなお顔をされちゃうのか」
「か、かわいい……」
カイの隣でマティアスの視線を気付いたヨエルとニーナが小声で感想を述べた。カイは自身の耳が熱くなっているのを感じた。
その時、窓の外から人々の大きな歓声が聴こえた。
「うわっ! すごっ!」
「ええっ! 本物?!」
庭の方向に視線を向けたヨエルとニーナが驚きの声を上げる。カイも視線を向けると窓向こうに巨大な輝飛竜がいた。
金色に輝く鱗を纏った筋肉質の巨体。首に鎖が着けられているのが見える。何人もの人がその鎖を持っているが、輝飛竜は実に大人しく従っていた。
すると一人の従者らしき男が開放された扉より大広間へ入って来て、声高らかに言った。
「マティアス・ユセラン・アルヴェルデール国王陛下、お誕生日、誠におめでとうございます! サムエル殿下が輝飛竜と共にお祝いに参りました!」
そう言われたマティアスは別の従者に促されて玉座を離れ、庭へと向かってしまった。
「あーあ。あとちょっとで僕達の番だったのになぁ」
ヨエルが残念そうに顔をしかめる。
マティアスがいなくなって謁見の列が崩れ始めた。
カイは少しホッとしたような残念なような複雑な心境だった。
「でも本物の輝飛竜だよ! 私達も近くで見ようよ!」
ニーナは興奮気味にそう言いながら、庭へと向かって行く。
「輝飛竜はね、アルヴァンデール国家の象徴なのよ! 国が危機の時、王族は輝飛竜に乗って民を助けるって!」
カイは城でサムエル殿下に会った時、輝飛竜が卵を産んだとかなんとか言ってた事を思い出した。
カイとヨエルもニーナや他の参列者と共に庭へと出た。
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