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第二章 誕生日と輝飛竜⑤
「フェイ! 落ち着けっ! どうしたんだ?!」
サムエルが宥めようと必死に呼びかけるも輝飛竜の興奮状態は治まらない。バルコニーは逃げ惑う人々と輝飛竜を止めようとする兵士たちでパニック状態に陥った。
カイはマティアスに駆け寄るとサーベルを輝飛竜の脚に突き立てた。しかし堅い鱗に覆われたその脚はびくともしない。
回りの兵士たちも剣を抜いて応戦しようとするが、輝飛竜は長い尻尾でその兵士たちを薙ぎ払っていく。
そして輝飛竜はバサッと翼をはためかせた。その巨大な翼によりバルコニーに強風が吹き荒れる。
輝飛竜はそのままマティアスを脚で掴み上げると羽ばたきを強めた。
「まさかっ!」
飛び立とうとしていることを察してカイは輝飛竜の首に飛び乗った。目を潰そうと考えた。この細いサーベルではそれしか手が無い。
だがカイが首に乗った瞬間、輝飛竜は急加速で飛び立った。
「くっ……!」
カイはその首にしがみつくのが精一杯だった。
輝飛竜は一瞬にして空へ舞い上がりぐんぐん加速していく。強い加速で気を抜くと一瞬で振り落とされそうだ。後ろを振り返る余裕も無く、輝飛竜は雲を切りながら飛んでいく。
あっという間に前方にバルヴィア山が見え、それも一瞬で越えた。
身を捩り輝飛竜の脚元を見ようとしたが角度的にマティアスの姿が確認出来ない。たがきっと掴まれたままだろうと予測した。
カイはどこか海か湖など降りられる所が来たらマティアスごと飛び降りようと考えた。やがて広い森の中に大きな湖が見えた。降りるならあそこしかない。
(おちつけ! 冷静に! 失敗したら最期だ!)
カイは自身に言い聞かせると輝飛竜の首から手を離し、脚へ移動を試みた。転げ落ちる寸前で輝飛竜の身体に付けられた鎖に掴り、脚へと辿り着いた。
「マティアス様っ!」
輝飛竜の脚には予想通り掴まれたままのマティアスがいた。しかし意識は無く輝飛竜の脚が血で染まり、ポタポタと赤い雫が空に舞っている。
輝飛竜が湖の上空に来た時、カイは森で暮らしていた時の鳥や獣を捌いた時のことを思いなぞり、サーベルを輝飛竜の脚の腱に突き立てた。
『ギャッ!』と輝飛竜が悲鳴をあげマティアスの身体が脚から離れ落下していく。
カイはさらに輝飛竜が追ってこないようにサーベルを鱗の薄そうな喉元に突き刺し、輝飛竜から飛び降りた。
輝飛竜の『ギャァァァ!』という叫び声を聞きながら、カイは落下するマティアスを追った。
空中ではためくマティアスのフロックコートを掴み、なんとか頭を守るように抱き寄せた瞬間、二人は『ザンッ!』と湖へ着水した。
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