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第三章 絶望の淵で④
「あ……あぁ……」
カイは膝から崩れ落ちた。
ここまでなのか。何か方法は無いのか。
頭の中をひっくり返す思いで必死に策を見つけようとした。
(いっそアルヴァンデールの王だと言って捕虜でも良いからなんとか助けさせようか! それか森へ行って上級の魔物を探して契約するとか! 何でもいい! あの人が生きているなら!)
「すまなかったなぁ……こんな遠くまで連れてきちまって。さあ、早く戻ってやろう。見知らぬ土地で一人では可哀想だ」
頭を抱えて固まるカイに老人が優しく声をかけてきた。カイは何も考えられず立ち上がることが出来なかった。
「私が行こう」
突然、屋敷の中から声がした。
カイ、老人、執事が驚き視線を向けた先。屋敷の玄関ホールの中央に備えられた木造の階段から一人の男が降りてきた。
「あ、貴方は……!」
執事が驚いたように声をあげる。
その男は波打つ金髪を揺らし、深紅の長いローブはためかせてこちらに歩いてきた。その風貌はマティアスに引けを取らないほどの美青年。その時、光の屈折かカイはその男の目が一瞬赤く光ったように見えた。
「あ、ああ。彼は旦那様が呼んだ魔術師です」
先程までカイや老人と一緒に驚いていた執事が突然思い出したように説明してきた。
「ま、魔術師!? じゃ、じゃあ!」
カイは一瞬感じた違和感に目を背け、その希望の光にすがった。
「ああ、私は治癒魔法が使えるよ。さあ早く彼の元に連れて行いけ。死んでしまってからでは私でも助けられないからね」
魔術師は妖艶な微笑みを湛え、青い瞳でカイを見つめる。
「お、お願いします!」
カイは魔術師にそう言うと老人を見た。老人も大きく頷き、「馬車はこっちです」と魔術師に案内する。カイは執事に深く頭を下げると、二人の追った。
バタバタと急ぎ脚で歩くカイと老人とは対照的に、魔術師は実に優雅に歩いてきた。すると『ヒヒィィィン!』と大人しかった馬車馬が突然嘶き前脚を高く上げた。
「どうどうどう! どうした?!」
老人が馬を宥め落ち着かせるが、馬は震えるように脚をバタバタさせている。
「私はどうも動物から嫌わせるタチでね。荷台の奥に座らせて貰おう」
魔術師はなんてことはないようにそう言い、勝手に幌を捲り上げ荷台へと入って行った。馬は魔術師の姿が見えなくなると幾分か落ち着き、老人に従い暗い夜道を歩き始めた。
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