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第三章 髪を撫でる手④

「意識がない時から綺麗な顔してるとは思っていたけど……まるで絵本の王子様みたいだわぁ」 「そこらのお嬢さんより美人だなぁ」  夕方、家に戻ったハラルドとヘルガは目覚めたマティアスを前に驚いた様子で感想を述べた。 「レオンと申します。この度は助けていただき、大変お世話にもなっており、心から感謝いたします」  カイの手を借り身を起こしたマティアスは偽名を名乗り貴族らしく丁寧に挨拶をした。 「そんなに畏まらんでいいぞ。まだ完全には良くなってないんだから、お前さんは傷を治すことだけに専念しな」 「ありがとうございます」  田舎の老人らしく少々乱暴な言葉ではあるが、ハラルドは孫に接するように気遣いの言葉を述べた。そして更に続けた。 「それにな、あんたを助けたのはこのウィルだ。森のずーっと奥にある湖からびしょ濡れで瀕死のあんたを背負ってここまで助けを求めに来たんだから。それに医者がいなかったら、隣町まで行くって言って……」 「ハ、ハラルドさんっ! いいですからっ」  止めなければマティアスが助かった時に泣いていたことまでバラされそうで、カイは慌ててハラルドを止めた。ハラルドはそんなカイをニヤニヤ見ている。 「まあ、本当に運も良かったよな。魔術師なんてこんな田舎では滅多にいねぇんだよ」  カイはマティアスに目配せした。  やはりこんな田舎では魔術を使える者はかなり珍しい。なので二人で事前に相談しマティアスに魔術が使えることは言わないと決めた。 「さあ、さあ、しっかり食べてしっかり治さないとね。貴族様のお口に合うか分からないけれど……」  三人で話す男達の間を割って、ヘルガがスープを乗せた盆を持ってきた。 「自分で食べられるか?」  盆をマティアスの膝の上に乗せ聞いた。マティアスは匙を持つと「うん、大丈夫そう」と答えた。その様子をカイは不安に駆られながら見つめた。  田舎の老婆が作ったスープ。はたして一国の王様の口に合うだろうか。吐き出したり、『これは犬の餌ですか?』等と言わないとも限らない。そんな不安をよそにマティアスがスープをひと掬いし口に運んだ。すると、 「……おいしい……!」  マティアスは驚いたように目を見張り言った。 「あら、本当? 無理しないでねぇ」 「いえ! 本当おいしいです!」  根菜をくったりと煮込んだスープをマティアスは本当に美味しそうに食べていた。そのマティアスの反応にヘルガはもちろんハラルドも嬉しそうに笑っていた。

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