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第三章 泉にて④

 マティアスは恥じらうことなくあっさりと服を脱ぐ。以前の城であったクレモラ卿からの尋問の際も潔く裸になった。そういう所は実に男らしい。  マティアスは傷を覆っていた布もとると、顔を歪ませた。 「凄いことになってる……」  魔術で修復された薄い皮膚の下はまだ赤黒く、そして肩と左胸全体も内出血で青くなっている。 「一昨日は血の気が引いて真っ白だったよ。回復してる証拠だ」  カイは石の上に座るマティアスに近づき両手を広げた。マティアスは患部を気休めに髪で守るように覆い、カイの肩に右手を置きゆっくりと泉に入って来た。 「うわっ、冷たっ!」  腰まで水に浸かった段階でマティアスは身を震わせた。 「だから言っただろう」  カイは笑いながらマティアスをそっと抱きかかえゆっくり水に入った。  マティアスの滑らかな肌が直にカイの肌に当たる。カイはなるべく意識しないように努めた。 「痛いか?」 「大丈夫だ」  マティアスの身体を水温に慣らしながらカイは聞いた。 「骨も折れてたって魔術師が言ってたぞ。相当痛かっただろう」 「んー、あまりよく覚えて無いんだ」  マティアスはカイに抱き着きながら記憶を巡らせている。 「アーロンが吹き飛ばされて、次の瞬間もう輝飛竜に踏まれてた。そしたらウィルが走ってくるのが見えて……ウィルまで襲われたらと思ったら……すごく怖かった。そこから記憶がない」  カイはあの時マティアスが『来るな』と叫んだことを思い出した。過去の男に似ているというだけで寄せられている好意であっても、心配してくれたことは純粋に嬉しいと感じる。 「招待客なんだから、あんな無茶しなくて良かったんだ」  マティアスはカイに抱きかかえられたまま偉そうにそう言い、カイの頬をつねってきた。 「でも俺が出しゃばったから今二人とも生きてるんだ。良かっただろ?」 「結果としてはな」  マティアスのツンと素っ気ない態度にカイはわざとらしくむくれた表情を見せた。 「なんだよ。もっと褒めてくれよ。ただの仕立て屋が飛竜相手にサーベル一本で挑んだんだから」 「まったく、とんでもない仕立て屋だな」  マティアスはクスクス笑った。そしてつねったカイの頬を今度は優しげな手つきで撫でてきた。 「……感謝してるが、褒めないぞ。もう二度とあんな無茶しないでくれ」  約束は出来ないとカイは思った。  きっとマティアスが窮地に立たされれば、その時はまた勝手に身体が動くだろうという確信がある。

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