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第三章 欠片①

 カイはマティアス同様に泥で身体を洗い、元々着ていたフロックコートなども洗濯してから荷車に戻った。色々な意味でスッキリしたが、微かなの罪悪感が残る。  荷車の上でマティアスは目を閉じて日光浴をしていたが、カイが戻るとうっすら目を開けた。 「疲れたか?」 「いや、大丈夫だ。とても心地良いよ」  そう言いマティアスは再び目を閉じた。穏やかで幸せそうな寝顔。乾きかけた金の髪が秋風に揺れている。  カイはその横で洗ってきた服を広げた。カイのフロックコートとズボンは破けている箇所も無く皺を伸ばせば売れる気がする。  マティアスの服も広げてみたが、コートとズボンは共に脱がすために切ったので、もはやただの布切れだ。生地としてももう売れないだろう。 「なっ! なんでっ、こんなっ!」  ふと目を開けたマティアスが驚いて起き上がり、カイが広げた服に飛びついてきた。 「ああ、脱がす為に切ったんだ」 「切った……」 「緊急事態だったからな。そもそも輝飛竜の爪で穴も空いてたし」  マティアスはショックで愕然とし、今にも泣き出しそうだ。そこまで愛着を持って貰えるのは制作者としては嬉しい限りだが。  カイはさらにズボンのポケットに入れていた木製のペンダントに気付きマティアスに渡した。 「あと、これ……」  マティアスがショックを受けている上でさらに追い打ちをかけるのは可哀想な気もしたが、良くない知らせを小出しにするほうが酷だとも思った。 「ああ……そんなっ!」  案の定、マティアスは真っ二つに割れたペンダントを見て悲鳴に近い声を上げた。 「止血しようと服を脱がせたら……もうその状態で……。欠片は近くにも見当たらなかった」 「そうか……。持っていてくれてありがとう……」  動揺しながらも礼を言いマティアスは愛おしそうにペンダントに彫られた男鹿を撫でる。すると欠けた断面をしげしげと見つめた。 「爪のような跡がある。輝飛竜の爪に当たって割れたんだな………」  マティアスがそう呟き、カイが覗き込むと確かに爪の跡らしきものが見えた。 「もしかしたら、このペンダントが輝飛竜の爪の威力を削いだのかもしれない。これが無かったら、もっと酷い怪我だったかもしれないぞ」  もしくは即死。そのことにカイは背中がゾワゾワとしてきた。 「そうか……ならこの鹿にも感謝しないとな」  マティアスはそう割り切りろうとしているが、やはり淋しそうだった。

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