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第三章 欠片②
カイは落ち込むマティアスの頭をグリグリと撫でた。
「そのペンダントは俺にはどうしようもできないが、服はまた作ってやるから」
マティアスにとってそのペンダントはカイの作る服とは比べ物にならない位大切なものだろうと思ったが、カイは気休めにそう伝えた。
「ほ、本当?」
しかしマティアスは思いの外目を輝かせて返事をしてきた。
「ああ。早速だが売れるものを売って、カネを作って、実用的な服を作ろう。ずっと寝巻き一枚でいさせる訳にいかないからな」
カイの言葉に現実を見たマティアスはしっかりとした目でこくりと頷いた。寝巻きの丈が長いと言ってもマティアスはズボンも履いてないのだ。カイとしても早くなんとかしたい。
「一番カネになりそうなのはこの黒真珠だな」
黒真珠のボタンを確認していると緑に光るものが目についた。裏地につけた二粒の緑のビーズだ。カイはそれを留めてある糸を剃刀で切ると、ビーズをマティアスに見せながら言った。
「これは大したカネにならないと思う。いるか?」
落ち込んでいた緑の瞳が輝く。
「……いるっ!」
マティアスはきっぱりと言うとビーズを両手で受け取った。金色の細い鎖に通された二粒の緑のビーズは、カイがマティアスに口づけたあの地下倉庫を思い起こさせる。それを見つめるビーズに似た緑の瞳には嬉しさが滲み出ていた。
マティアスはそのビーズの鎖を割れた木製ペンダントの革紐に一緒にくくりつけた。
過去の男から貰ったものと一緒にされるのは少々思う所があるが、カイとの思い出も無くしなくないモノの一つにされていると感じ、嬉しく思った。
さらにカイは全ての服のポケットに他に物が入ってないか手を入れ確認した。するとマティアスのコートの内ポケットに陶器の欠片の様な物が入っていた。
「これ、必要なものか?」
マティアスにその真っ白な欠片を差し出す。
「なんだ、これは……」
マティアスも知らないようで質問に質問で応えてくる。
「内ポケットに入ってたぞ」
マティアスはその欠片を受け取りまじまじと見つめた。
マティアスでも知らないとなると湖や森で紛れ込んだものか。だがそんなものが内ポケットに入るだろうかと、カイは疑問に思った。
「……これ、輝飛竜の卵の殻だ」
欠片を見つめながらマティアスが確信を持ったようにそう言った。
「は? 輝飛竜の卵って……!」
カイは驚きつつマティアスがもつ白い欠片を見つめた。卵の殻とは思えない分厚さ。だが微かに湾曲していて元は丸かったことが想像できる。
マティアスは更に続けた。
「あの輝飛竜が、フェイが怒った理由はきっとこれだ! フェイは雄で番のサラが今年卵を産んで、まだ孵化したとは聞いてなかったから、もしかしたら誰かがその卵を割ったのかも……!」
マティアスは額を押さえて苦悶の表情を浮かべる。
「ああ、フェイはきっと私が仔を殺したと思ったんだ。怒って当然だ。サラと仔が無事だと良いのだが……」
輝飛竜の親子を心配するマティアスにカイは声を荒げた。
「そ、そっちが心配なのも分かるがっ、この欠片が内ポケットに入っていたってことは、マティ……レオンの身近な人物が仕組んだってことだろう?! もはや殺人じゃないかっ!」
「まあ、そうだな……」
カイの強い問いかけにマティアスは顔を曇らせた。だが妙に落ち着いてもいる様子にカイは違和感を感じた。
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