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第三章 欠片④
「は?」
一瞬理解できず固まるカイにマティアスはそのまま話を続けた。
「本物のルーカスは流行り病で亡くなったそうだ。ルーカスは私に仕えるのが夢だったらしくて弟の夢を叶える為に彼女は女であることを捨てて城に来ている……。あの子は他者の為に自分を犠牲にする、そういう優しい子なんだ」
そう言うマティアスの声は慈しむように優しげな色を含んでいる。
「……随分可愛がってるんだな」
カイはぶっきらぼうにそう言った。
男だと思ってた時も気に食わなかったが、女だと分かっても不愉快だ。ルーカス、いやマリアンナなら身分差こそあれど、マティアスの妃になることだって可能だ。マティアスの特別になれる存在。それがカイの嫉妬心を煽った。
「弟の呪縛から解き放てる時が来たら、誰か良い相手を見つけて幸せになって欲しいと思っていたんだ。それまでは私が守ってやらねばと……」
カイの嫉妬心などに気付くこと無くマティアスのその顔には一刻も早く帰りたいと言う思いがにじみ出ていた。
ルーカスもといマリアンナに対する嫉妬心はあるが、カイはあの事をもう話さなくてはいけないと思った。このまま隠しているのはマティアスに対してあまりに不誠実だ。
「あのさ、まだ昨日意識戻ったばかりだし、伝えるのはもう少し体調が良くなったらがいいと思ってたんだが……」
伝えると決意したのにウダウダと言い訳から入るカイ。それをマティアスは何も言わず美しい緑の瞳で見つめてくる。
やはり言いたくない。だが言わなければならない。
「魔術師が……完治させる方法があると言っていた」
「ほ、本当か!? どうすればいい?」
マティアスが目を見開き、前のめりで尋ねてきてカイは目を逸らすように俯いた。
「身体を繋げて行う治癒方法があると……」
カイの言葉にマティアスから息を呑む気配を感じた。カイは再び顔を上げるとマティアスに詰め寄った。
「だがっ、そんな方法、本当にありえるのか?! 単にその魔術師の下心なんじゃないかと思うんだ! 本当は完治させられるのにわざと中途半端に直したんじゃないかと……」
「……わからない。魔術は術を研究し開発する者によってその方法は幾通りにも分かれていく。そのようなやり方が無いとも言えない」
マティアスは顔を曇らせたつつもそう答えた。
「どうするべきか、その魔術師に会ってみないことには……」
マティアスの要求は至極当然だったが、カイは胸の苦しさに顔を顰めた。
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