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第三章 村祭り①

 十月末日の祭り当日の夜。カイとマティアスは村の広場へと向かった。  祭に行くことをハラルドとヘルガに話すと、晩秋の夜は寒いからとマフラーや帽子、手袋などを沢山貸してくれた。さらにカイが作った外套も着込んだ。  自分の作った服をマティアスが身に纏っていることがカイは嬉しかった。機能重視で作ったが、マティアスの気品ある顔立ちと金髪になんだか絶妙に似合っている。 「これ、私が切ってしまった所か?」  カイが着ている外套の脇腹あたりをマティアスが突いた。茶色の生地の上を一直線に走る同系色のステッチ。 「ああ、そうだよ」  カイは笑いながら言った。マティアスは自身の失敗の跡が残ってしまうのは不満そうだが、カイはこのマティアスの頑張った痕跡にも愛おしさを感じていた。  暗い夜道を歩いていると村の広場がある方向が光って見えた。 「あれかな?」  マティアスがウキウキした顔でカイを見てくる。その方向から賑やかな音楽も流れてきた。 「そうみたいだな」  カイが作った外套を纏いヘルガの帽子とマフラーに埋もれたマティアスは、今にも走り出しそうなほど気分が高揚している様だ。 「地元でも祭りはあったよな? 行かなかったのか?」 「もちろん祭りはあったよ。年に何回も。でも私はいつも高い所から手を振るだけだ」 「ああ、そうだよなぁ……」  王様が祭りの雑踏に立ち入りなんて危険だろうし、マティアスの場合は『お忍び』でもこの風貌では目立ちすぎる。  そうこう話していると村の広場に着いた。広場は想像よりだいぶ小さかったが、あちこちにランタンが灯され、中央の焚き火を囲んで大勢の村人達が踊り、祭りの賑やかさが感じられた。さらに広場の端には小さな出店が並び客も多い。カイはこの村にこんなに人がいたことに内心驚いていた。 「わぁ、凄く賑やかだな!」  マティアスは興味深げにキョロキョロと辺りを見回している。 「あんた達、見ねぇ顔だな。ひょっとして飛竜に攫われてきたって人達か?」  突然近くの露店から店主らしい中年の男が話しかけてきた。 「ええ、そうです」  カイが素直に答えると店主はマティアスとカイの両方を見た。 「それにしても噂には聞いていたけど、二人とも色男じゃねぇか。ちょっとコレ一つ着けていってくれよ」  店主はそう言って花の飾りを差し出した。 「ご主人、すまないが俺たち、カネが無いんだ」  本当は少しだけ持って来たがどうせ買うならマティアスが欲しいと思ったものを買いたい。カイはそう思い断った。 「知ってる知ってる。そっちの金髪のにいちゃんにやるから、どこかに着けて誰かに聞かれたら『入口の店で売ってるよ』って言ってくれよ」  マティアスがカイの顔を見てきた。貰っても良いのか尋ねている顔だ。カイは微笑みながら頷いた。 「ありがとうございます。目立つ所に着けましよう」  マティアスはそう言って花飾りを受け取った。 「これ何で出来てるんですか? 木?」 「そうだよ。木を薄く削って色を着けてるんだ」 「凄い! なんて繊細な!」 「そうだろそうだろ」  マティアスは大袈裟だが本当にそう思っているようで感心したように声を上げた。すると近くにいた若い娘がそれを見て足を止めた。 「いらっしゃい。見ていってー」  店主が嬉しそうに娘に声をかけ、娘は花飾りを選び始めた。 「ウィル、どこに着けたら良いかな?」  マティアスが花飾りを差し出してきた。カイはそれを受け取りマティアスのマフラーにそれを挿した。マティアスの整った顔の左側に素朴な木製の花が咲く。 (可愛い……)  カイは自身の顔がついニヤけてしまうのを感じた。 「ん、良いんじゃないか」  カイの言葉にマティアスが嬉しそうに微笑む。 「じゃあご主人、ありがとう!」  カイとマティアスは店主にそう礼を述べるとその場を立ち去った。店主はさらに増えた客の相手をしながら「おう!」と手を挙げた。

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