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第三章 村祭り③

「レオンのこれ何? 一口頂戴」  カイはマティアスが口をつける前に勝手にカップを奪って一口飲んだ。マティアスが口をつける前に安全か確認したかったからだ。 「あー、温かい。りんごジュースにハーブとか入れてるのか」  飲んでみたところ酒の味はしないし、何か怪しい薬等も感じない。カイがカップを返すとマティアスはゆっくりそれを味わうように飲み、「美味しい」と呟いた。 「ダン、私にまでありがとう。薪集めだって本当なら私が行くべきだったのに……」 「いや、良いんだよ。それに木を切ったりするのは結構危ないから経験が無いなら怪我して無くても人に任せた方がいいよ」  ダンの発言にマティアスは目を見開いた。 「そうなのか? じゃあウィルは? ウィルだって木こりじゃないだろう? 大丈夫だったのか?」  マティアスは心配そうにカイとダンを交互にみる。 「いや、ウィルは結構慣れてたよな」 「まあ、ダンよりは要領悪かったと気付いたよ」 「そりゃ、都会モンには負けねぇよ」  二人の掛け合いに回りがドッと笑った。すると 向かいに座っていたマルコが口を挟んだ。 「レオンさん、本当に木を切って運ぶって結構危ないんです。うちの兄ちゃん、丸太がちょっと転がっただけなのに足を挟んで骨折しましたから」 「えぇっ! お兄さん大丈夫かい?」 「ええ。もう2年も前ですから。もう普通に歩いてます」 「木を切り倒す時はもちろん気を付けるんだけど、倒したのを運ぶのにも結構危ないんだよな」  ダンが付け足すとその場にいた若者達が皆頷き、口々に話し始めた。 「村人の数の割には森は広いから木は不足しないけど、運ぶのがなぁ」 「でも冬を越すには大量に薪が必要だし」 「毎年面倒だよな」  そして誰かがその言葉を口にした。 「本当に二十年前の戦でアルヴァンデールに勝ってたらって思うよ」  カイは息を呑み、隣のマティアスを横目で見た。マティアスは表情を変えず聞いている。 「あんた達、知ってる? アルヴァンデールには燃える石があるんだ。その石は一個で暖炉を十日も暖め続けるらしいよ」  カイがアルヴァンデールで聞いた話では火焔石一つで一日だった。どうしたって話には尾ヒレが付くらしい。 「そそ。それでそれを手に入れる為に二十年前、うちの王様がアルヴァンデールに攻め入ったんだけど、結局勝てなかったんだよ」 「向こうは魔術師を多く抱えてたらしいからな」 「ああ、うちの親父、その戦行ったってよく話すよ」 「お前ん所の親父は生き残りだもんな。うちの親父は帰ってこなかった組だ」  若者達は実に軽い話のように語っている。多分彼らは二十歳前後。戦の前後に生まれただろう彼らは戦死した父親の顔を覚えていない者も多いのだろう。  マティアスは相変わらず表情を変えず聞いている。 「でもあそこはたまに山に巨大な魔物が出るんだろう? しかもそれを鎮めるのが王族の役目って」 「そうそう。王様ってのは言えば聞こえはいいけど、あそこの王様は国の奴隷だよな」  その発言にマティアスがビクッと震えたのがわかった。マティアスは動揺を隠すようにダンから貰った温かいりんごジュースをちびちびと飲んでいた。

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