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第三章 金色の光④
二人が家に辿り着いたのはもう真夜中だった。
祭りの興奮からさらに生死にかかわるハプニングで二人とももうヘトヘトだった。しかし森を歩き回り、洞窟に入り、瀕死の飛竜の死臭にまみれ、地面を転げ回った身体。カイでさえそのままベッドには入りたくないと思った。
「さすがに身体を洗わないと寝られないな」
カイはそうマティアスに言い、すぐさま暖炉の火を起こし、湯を沸かし始めた。マティアスも頷くと身体を拭く布などを用意し始める。
暖炉の前に入浴用の大きな盥 を置く。ヘルガが使ってないからと貸してくれた古いものだが、作りが良く水漏れも無い。
湯が沸くと温度を確かめながら盥に入れる。
「ほら。髪洗ってやるよ」
準備が出来てカイはマティアスに声をかけた。
マティアスは頷くとポイポイと服を脱ぐ。相変わらず恥じらいが無い。マティアスはすぐに全裸になると盥の中で膝を抱えて丸くなった。
この家に住みこの盥での入浴を始めてみた所、マティアスは壊滅的に頭を洗うのが下手だとわかった。盥の回りをびしゃびしゃにした挙句、髪はただ濡らしただけのような洗い方で、結局カイが洗ってやることになっている。
顔を伏せ、差し出された頭をカイは手元に持って来た櫛で梳かし、湯をかけて濯ぐ。
「ぷはっ」
伏せた頭の下でマティアスが不器用に呼吸している。城では専用の椅子に仰向けに寝て、顔に湯がかからないように洗ってもらっていたらしい。ここにはそんな設備はないのでこの形で洗うしか無いのだが。
頭皮を湯で揉み洗いながら、髪からも埃を流していく。指の間を流れていく絹のような金色の髪。その先に白い首筋と、背骨が美しいラインを描く背中が見えた。
この入浴時にはいつも気を張りその裸体に邪な感情が湧いてこないように蓋をしているが、ふとした瞬間魅入ってしまい身体が熱くなりそうになる。マティアスが全く気にしていない様子なのでそれに合わせているが、これがもし恥ずかしそうにこちらを意識していたら、とてもじゃないが我慢出来ないだろう。
カイは気をそらす為にマティアスに話しかけた。
「あの輝飛竜……ひと月もよく生きてたな」
「うん、見つけられて良かった」
「……痛い思いをさせてしまって、可哀想な事をした」
「いや、ウィルは悪くない。お互い必死だったってよく分かった」
髪を湯で流し水気を絞り軽く束ね、カイはマティアスに「ほら、終わったぞ」と告げた。マティアスは「ありがとう」と言って顔をあげた。
顔を上げると胸までが見えてしまった。左肩付近の傷はまだ青紫に変色しているがだいぶ良くなっている。そう思いつつも視線が無意識に胸の飾りを追ってしまう。
「はい、じゃあ後は自分でやれよ」
「うん」
そう言ってマティアスに身体を洗うための藁を丸めたタワシを渡し、カイはその場を離れた。
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