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第三章 金色の光⑤

 感心が無いフリをして、こんな真夜中にやる必要もないのに布の束をめくり、整頓してみる。 「あ、ウィル、あのね」  するとマティアスが身体を洗いながら話しかけてきた。 「ん?」  返事をしながらも視線は向けない。と言うか向けられない。早く衝立(ついた)てか何か目隠しになるものも用意しなくては、と思う。 「ずっと感じていたんだが、ここは妖精たちが多いんだ」  マティアスはカイの悶々とした考えとは全く違う話を始めた。 「そう、なのか……?」 「それで、たぶんヘルガさんは妖精が見えてると思う」 「えっ?」  カイは思わず顔を上げた。マティアスの背中から細い腰までが暖炉の光に照らされて輝いて見える。カイは慌てて視線をそらした。 「ヘルガさんが特別で隠しているのかな、と思ってたんだけど、今晩の祭りで子供たちが妖精とじゃれて遊んでたんだ。十歳以上の大きい子でも見えてるようだった」 「それって……どう言うことだ?」 「アルヴァ……私の地元より遥かに妖精が多いし、魔力を持った人も多いと思う。なのに魔術師がいないんだ。もし魔術を積極的に広めたら、たくさんの魔術師が誕生してこの国は豊かになるはずだ」  マティアスは先ほど聞いた若者達の話からなんとか生活が楽にならないかと考えていたようだ。自国の王家を奴隷だと馬鹿にされたのにもかかわらず。 「でも……突然巨大な魔力を一国が手にしたら、隣国には脅威だ。だから現状、私には……」  カイにはマティアスが一個人としてこの村の人々を助けたいと言う思いを確かに感じた。しかしアルヴァンデール王国国王としてのマティアスには敵国に武力になりえる魔力を広めることは躊躇いがある。それは当然だった。今日の若者達の話でもアルヴァンデール王国には多くの魔術師がいた為、二十年前の戦で勝利できた。これがバルテルニア王国も同等以上の魔術力があった場合、戦争が泥沼化した可能性も高い。  カイにも明確な解決策が思いつかず沈黙した。 「すまん、湯がさめるな。交代しよう!」  バシャッと鳴った水音にカイは咄嗟に顔上げてしまった。  マティアスが盥の中で立ち上がり、束ねていた髪を解き掻き上げる。白い背中に濡れた金の髪が揺れ、その髪では隠しきれない滑らかで柔らかそうな尻が目に映る。  何も気にすることなく身体を拭くマティアスにカイは立ち上がり言った。 「ちょっと(かわや)行ってくる……」

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