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第三章 怒り②
(私はウィルの一番の友にもなれないのか)
マティアスは心の奥底で落ち込んでいた。
今のウィルバートは女性が好きだ。昔のウィルバートは男も女もだったらしいから根本は女性が好きだったのではないだろうか。
一度は抱いて貰ったが、もうあんなことは無いのだろう。だから今一緒に暮らしていて、気さくに話して笑い合って、親友か兄弟のような気分になっていた。それでも贅沢過ぎるくらい幸せを感じている。
ウィルバートは優しい。
この前の輝飛竜との遭遇でも本気で心配してくれていた。でも本当は何も出来ない哀れな王様を見捨てられないだけなのかもしれない。そして、本当に友にしたいのはダンような人物なのかもしれない。
マティアスは自身の手がメギの枝を持ったまま止まっていることにも気付かず、薪を割るウィルバートをぼんやりと見つめていた。
「あ〜ん! あの筋肉ステキ。抱いて〜!」
突然隣から声がしてマティアスは驚いて右を見た。
「ヴィー……」
マティアスのすぐ右側にバルヴィアがちゃっかり座っていた。
「確かに、良い身体しておるよのぉ」
「私は何も言ってないし、ウィルを変な目て見るのは止めてくれ」
「言の葉は出しておらぬが、心では思っておるのがわかるぞ。はよ抱いてくれと言えばよいのじゃ」
「なっ!」
マティアスの動揺をよそにバルヴィアはマティアスが摘んだメギの実をつまみ食いし「なんだこれ」と顔を顰めるので、マティアスは「食うなっ!」とバルヴィアの手を叩いた。
騒いでいるのにウィルバートが気付き、薪割りの手を止め顔を上げた。心配するようにこちらを凝視するウィルバートにバルヴィアは無邪気手に振る。
「あやつ、なかなか色欲が強いからな。放っておくと村の娘達に取られるぞ」
バルヴィアはニヤニヤと嗤いながら言ってくる。
(そんなこと……私にはどうしようも無いじゃないか)
マティアスはバルヴィアと自身の痛む胸を無視してメギの実を取る作業に戻った。しかしマティアスに無視されてもバルヴィアは勝手に話しかけてくる。
「フォルシュランドに居た時からそうだ。手頃な娘に手を出しては相手が本気になるとすぐに逃げる。どこかで落ち着いて所帯を持つかと思っていたがちっともだった」
ウィルバートがフォルシュランドでどんな生活をしていたか、マティアスはとても知りたかった。しかし恋愛関連となると話は別だ。知りたい気もするが、心が受け止められない。
「やめろ」
マティアスは目を合わせずに吐き捨てた。しかしそんな指示にバルヴィアが従う訳もない。
「本気になった女に刺された事もあってな、面倒だから最終的にはわしが相手をしてやってたわ」
その言葉はマティアスは固まった。
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