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第三章 怒り③

「は……?」  思わず顔を上げてバルヴィアを見る。バルヴィアはなんてことは無いように続ける。 「だから、あやつの好みそうな娼婦になって、相手をしてやっていたのだ。少なくとも七日に一回は通って来たぞ」  マティアスは思わず立ち上がりバルヴィアの胸倉を掴んだ。 「貴様っ! なんでそんなっ!」  全身の血が燃え上がるように怒りに包まれる。マティアス自身、思考の整理がつかない程感情が乱れた。 「何をそんなに怒る? あやつの命を守り人らしい生活に導くのが契約内容であろう? まぐわってはいけないとは言われておらん」 「ふっ、ふざけるなっ!」 「ふざけてなどおらぬ。一番合理的だったまでだ。嫉妬しておるのだろうが、わしでなければ他の女を抱いていただけのことだ」 「うるさいっ! 黙れっ!!」  頭の中がグチャグチャだ。  右手が熱く光り輝き、一瞬で出現した光の剣をマティアスは握っていた。怒りで理論的な思考が停止し、今すぐこの魔物をこの世から消したいとしか考えられない。 「おお? それでわしを突き刺すのか?」  バルヴィアはニヤニヤと嗤い、さらに挑発してきた。 「あやつ、後から獣のようにヤルのが好きだよな? お前もこの前そうされたのだろう? わしにもよくそれで」 「黙れぇぇ!!」  マティアスは叫び光の剣をバルヴィアめがけて突き刺した。 「おいっ!!」  突然ウィルバートの怒鳴り声と共に大きな手がマティアスの右手を掴んできた。  その瞬間、ボタボタボタ……と真っ赤な血が滴った。 「っ……てぇ……」 「あ……」  マティアスの右手を握り止めたウィルバートの手の甲から光の剣が突き出ている。 「ああぁぁ! ウィルっ!!」  マティアスの悲鳴と共に光の剣は消えた。 「あーあ」  バルヴィアは他人事のようにそう言うと、いつも通り燃えるように姿を消した。 「ち、治癒を……!」  マティアスは慌ててウィルバートの手を握り、震える手ですぐに治癒魔法を施そうとした。そんなマティアスにウィルバートは優しく諭すように言ってきた。 「落ち着け。ここじゃ駄目だ」 「あ、あぁっ、ご、ごめんっ!」  ウィルバートはズボンに挟んでいた手巾で負傷した右手を包むと、マティアスの背中を撫でながら家の中へと促した。 「これくらいで死にはしない。今はレオンの方が倒れそうだぞ」  そう言いながらもウィルバートの額には汗が浮かんでいた。

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