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第三章 初雪①

 十一月二十日。初雪が降った。 「ウィル! 外が真っ白だっ!」  早朝、ベッドから抜け出し寝室の窓から外を見たマティアスがはしゃぐ。 「う……ん……どうりで、寒いわけだ……」  寒いし眠いしでカイは布団に潜り込んだ。 「でもほんの少しだ。すぐ溶けちゃうかな」  少し残念そうに言う二十六歳が可愛くてカイは手招きした。マティアスは窓辺から離れてカイのベッドに潜り込んで来る。ひんやりと冷たい身体に熱を奪われながらもカイは愛おしいその男を抱き締めた。 「……これから嫌ってほど降るさ」 「ふふ、そうだね」  マティアスは嬉しそうにそう呟く。  ここへ来てから初めて肌を合わせたのが五日前。そして二日前、湯浴みの後また睦み合い、一緒に一つのベッドで眠った。  そういうことが無い日はそれぞれのベッドで別々に眠っている。一人用の小さなベッドに男二人で眠るには狭い。だが抱き合い眠るのは暖かく幸せで別々に眠る夜は淋しく感じる。 「雪、たくさん降ったらさ、雪だるま作ろうよ」  マティアスがカイの髭を指先で撫でながら提案してきた。カイは思わずフフッと肩を揺らした。 「作ったこと無いのか?」 「あるよ。子供の頃。でも雪が少なくて泥混じりになっちゃってさ」  笑いながら、でも懐かしそうに語るマティアスにそれは昔の男との思い出だろうな、と思った。若干の嫉妬心はあるものの、それでも構わないとも思う余裕がカイの中に出来ていた。 「いいよ。真っ白で大きいのを作ろう」  カイはマティアスの頬を撫で、その薄紅色の唇に口づけた。  その日の午後、ダンがやってきた。 「この前はすまなかったな」  家の中に招き入れ、先日の無礼を詫びるとダンはニヤニヤと笑う。 「で、何? 上手くいったのか?」 「……お陰様で」 「まじか〜! 『春までに』とか言ってたくせに冬前に方付けやがってっ! うらやましい!」 「なに? なにがうらやましいの?」  そこにマティアスがお茶を淹れて持って来た。マティアスは少しずつ家事を覚えて、お茶位なら一人で淹れられるようになった。アルヴァンデールの王にお茶汲みをさせているなんてあり得ない話ではあるが。 「なんでもない。くだらない話だ」  カイが笑いながら誤魔化すとマティアスはわざとむくれた顔を作った。 「また二人で内緒話か?」  しかしそこに深い嫉妬心は無さそうだ。  抱き合うようになり、カイはマティアスに『可愛い』『綺麗だ』と感じているままを口に出来るようになった。それによりマティアスの不安そうで遠慮がちな顔を見ることも減った。 「二人が仲良さそうでうらやましいって話だよ」  ダンのからかいにマティアスは頬を赤らめて「そうかな」と呟く。ダンがそれを見て苦しそうに顔を歪めた。 「あぁ〜、俺も早く嫁探そっ!」

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