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第三章 初雪②

 二人の惚気を一人で受け止めていたダンはお茶を口にしながら切り出した。 「そうそう、祭りの時にウィルとレオンが着てた服、評判いいんだよ。あの時居た何人か作って欲しいって言ってるんだ。小銭稼ぎにどうだ?」 「本当か!」  黒真珠を売った金はまだあるが、春以降の帰り旅には少し心許ない。それにハラルドとヘルガにもお礼を渡したかった。 「生地を持ち込んでもらえれば可能だ。材料の在庫が抱えられないから」 「ああ、良いんじゃないか。じゃあ希望のヤツに伝えるよ」 「よろしく頼む。冬の仕事が出来て助かるよ」  カイは冬の間何か出来ないかと思っていた。ハラルドに聞いたところによると出稼ぎに出る若者もいるそうだ。しかし、この家にマティアス一人を残しては行けないし、ましてやマティアスと一緒に泊まり込みの仕事なんてもっと無理だった。 「暇で家に籠もってたら、それこそ春にはレオンの腹が膨れてそうだもんな」  ダンがニヤつきながらカイを見てくる。マティアスの前でなんて下品なことを言うのかと思い、カイはダンを睨みつけた。するとマティアスは「あはは」と声を上げた。 「怪我もだいぶ良くなったし、私もウィルを手伝うよ。みっともなく太りたくないしな」  意味を全く分かっていないマティアスはそう朗らかに笑った。  すぐに溶けてしまった初雪にマティアスががっかりしていたのも束の間。十二月に入りルンデ村はどんどん雪に埋もれていった。  雪は一度降り始めると何日も降り続けた。ハラルドが言っていたように家から出ることが難しくなりひたすら家の中で過ごすことになった。  カイは村人から依頼された服を作り、マティアスはヘルガに習った簡単な料理や家事に挑戦していた。 「どうだ? 味、大丈夫か?」  その日の夕食に出されたのは芋を切って少量の油で焼き、塩をかけただけのもの。切り方が厚すぎたものは生焼けで少し硬いが、あの何もできなかった王様しては上出来だ。 「ああ、美味いよ」  カイの応えにマティアスは嬉しそうに微笑んだ。  芋と共に感じる菜種油の風味。  身体を繋ぐのにこの油を使ってしまっているので、この仄かな香りを感じる度にマティアスの艶めかしい姿を思い出してしまう。 「今日、髪……洗ってやるよ」  マティアスが顔を上げた。  もはや二人の間で入浴はその後の抱き合う事を意味している。夜に人が尋ねてくる事は殆ど無い上にこの雪なら尚の事だ。早い時間からゆっくり睦み合える。 「ん……ありがとう」  マティアスは小さく礼を言うと頬を赤らめた。  この丸太小屋にマティアスと二人きり冬に閉じ込められている。カイの世界にはマティアスだけ。そしてマティアスの世界にもカイだけだ。  カイはこれまでの記憶の中で最も幸せな日々を過ごしていた。

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