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第三章 発覚と崩壊⑤
ハラルドはすぐに頷き応えた。
「ああ、そのつもりだよ。この雪の中、追い出すなんて目覚めが悪すぎる。予定通り春まで使ってくれ」
「あ、ありがとうございます」
その言葉にマティアスは立ち上がり頭を下げた。
「ただ、やっぱりヘルガは……割り切れとらん」
ハラルドは二人から目線を反らしテーブルに視線を落とした。
「子を失った母親とはそういうものだ……。悪いけどな、これまでのような交流は無理だ」
「そう、ですよね……」
マティアスはそう言葉を絞り出した。
そう、当然なのだ。
ハラルドとヘルガの息子はアルヴァンデールとの戦で亡くなった。マティアスがただのアルヴァンデールの一市民だったのならヘルガも割り切れたかもしれない。しかしマティアスは先の戦を制圧したイーヴァリの孫であり、アルヴァンデールの国王でもある。現在の国王は従兄弟叔父のサムエルになったようだが。
「すまんな」
「いえ、当然です……。大事な家、使わせて貰えるだけでありがたいですから」
マティアスは顔を上げハラルドに礼を伝える。そしてハラルドは立ち上がり「じゃあ」と言って玄関に向かった。
「それ、食えよ」
ハラルドは暖炉の中で温まり沸々と湯気を出す鹿のパイを指した。
「はい、ありがたく頂きます」
ウィルバートが答えるとハラルドは頷き雪の降る外へ出て行った。
「ヘルガさんがせっかく持ってきてくれたし、食べようか」
ウィルバートがそう促し、マティアスは台所から受け皿とフォークを出してきた。ウィルバートが暖炉からパイを出してきて取り分けてくれる。二人向かい合いパイを口に運んだ。
「ひとまずは、良かったな」
「……うん」
ウィルバートがマティアスを励ますかのように笑顔を向けた。マティアスはそれに応えるように頷いた。
鹿肉を野菜や香草と共に煮込みパイで包み焼いてある。手の込んだ温かくて優しい味の料理だ。
パイを口に運びながら頬に雫が伝うのを感じた。マティアスは食べながら溢れ出る涙を止めることが出来なかった。
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