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第三章 想い①

 その夜、カイは当然のように寝付けなかった。知らされた事実があまりに大きすぎて受け止められない。  あの後、泣くマティアスを連れてなんとか家に戻った。天気が良いので村人が多く尋ねて来たが、マティアスの目は真っ赤で客前には出られず、体調不良と言うことにして寝室に籠っていた。  その後夕食でも殆ど無言になってしまった。カイは他にも色々聞きたいと思ったが、マティアスが憔悴しているように見え聞けなかった。  マティアスが九年間背負い続けたものはあまりに大きい。王としての重圧だけでなく、罪の意識も背負っていた。しかもそれは全部カイの為だ。  カイはベッドから抜け出した。隣のベッドを見るとマティアスは寝息を立てている。泣き疲れているようだ。  一階に降り、何をするでもなく暖炉の燃え残った薪を見つめる。まだ少しだけ火が残る赤い燃え滓。  するとコンコンと窓から音がした。顔を上げるとヴィーが顔をのぞかせて、指で『出てこい』と指示してきた。カイは寝巻きの上に外套を羽織り玄関から外に出た。 「マティアスから全てを聞いたのだな」  外に出たカイに開口一番ヴィーが言う。 「ああ。お前、魔物だったんだな。人間離れしていると思っていたから、何だか納得だ」  相手があの『黒霧の厄災』を起こしている魔物だと言うのにあまり怖いと感じない。食事を共にしその無邪気な子供っぽさを知ったからだろう。  ヴィーがニヤリと笑うとその身体が赤紫の炎に包まれた。途端に現れたのは赤い髪に赤い目の魔物。年齢は二十歳位で服は素肌に布を纏っただけのような格好だった。 「それが本当の姿か」 「まあな。色んな姿に化けられるぞ」  ヴィーはそう言うと次々と姿を変えた。若い農夫、五つ位の子供、腰の曲がった老婆、など次々に見せ、最後に長い金髪の女になった。 「あ、あんたは……っ!」  控えめの胸に赤いローブを羽織っただけの艶めかしい姿。妖艶な笑みを浮かべるその女はカイがフォルシュランドで贔屓にしていた娼婦だった。 「あっ……えぇ〜〜〜〜と……」  カイは思い出せそうで思い出せない名前を必死に探り、右手くるくると回した。 「ミランダじゃっ!」  顔を顰め記憶を辿るカイにヴィーが怒鳴る。 「あぁ、そうそう! そんな名前だった!」  そんなカイにヴィーはミランダの姿のまま呆れた表情を見せた。

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