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第三章 想い③

 一瞬で燃え消えるヴィーを見送ると家のからバタバタと階段を降りる音が響いてきた。そしてバンッと玄関扉が開くとマティアスがもの凄い勢で飛び出してきた。  マティアスは玄関脇に立っていたカイに気付かず、そのまま階段を駆け降りて家の前の通路に走り出た。そして髪を振り乱し通路の左右を必死に見ている。  明らかに自分を探しているのだろうと思い、カイは声をかけた。 「マティ……」  声を発したと同時にマティアスの身体が金色に光り輝き、そしてスウッと光が消えると共にマティアスもその姿を消した。 「マ、マティアスッ?!」  突然のことにカイは慌てて階段を転げるように降り、マティアスのいた場所に走り、辺りを見回す。しかしそこには静かな夜の森しか無い。 「あぁ……っ!」  カイは頭を抱えオロオロと家の周りを走り回りマティアスを探した。するとそれほど経たずして目の前が金色に光り輝き、眩しさに目を凝らすとその光の中心にマティアスが姿を現した。 「ウィルッ!」  マティアスはすぐさまカイに抱きついてきた。 「い、いかないでっ! 何でもするからぁっ!」  カイは唖然としながらしがみつくマティアスを見つめた。 「く、空間移動……か……?」  マティアスが顔を上げる。月明かりに照らされたその顔はまた涙で濡れていた。 「お、お願い……側にいて……っ」 「マティアス……」  必死に訴えてくるマティアスをカイは安堵と共に抱きしめ、頭を撫でながら耳元で囁いた。 「ここ、どこだか分かるか?」 「え……あれ……?」  カイが顔を上げてマティアスを見ると、濡れたエメラルドの瞳は丸太小屋を見つめて呆然としていた。 「俺が一人で出て行ったと思ったのか?」  カイが少し笑いながらそう尋ねるとマティアスはカイの胸の中で嗚咽を漏らし始めた。 「驚かせちゃったな。ごめん」  カイはマティアスの背中を擦り謝った。  今の現象は以前マティアスとヴィーが話していた妖精に空間を超えて運んでもらう術だろう。  妖精たちは少しでもマティアスが望んでいなければそれを叶えないと言っていた。だから術を使ってアルヴァンデール王国に帰ることは出来なかったのだが、今の移動は完全にマティアスがカイの側に行きたいと望んだと言うことだ。  カイの胸にマティアスへの愛おしさが溢れた。 「裸足じゃないか。ほら、中に入ろう」  カイはマティアスを担ぐように抱き上げると玄関先の階段を登った。マティアスは抱きかかえられながらすすり泣き、カイの背中に必死にしがみついていた。

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