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第三章 想い④

 丸太小屋の中に入り、暖炉前のラグにマティアスを降ろした。暖炉の残り火に細い枝を焚べ、急いで火を(おこ)す。  マティアスは寒さからか、カイが居なくなったと思ったからか、小刻みに震えていた。 「マティアス。ごめん、不安にさせた」  カイは涙で濡れた頬を撫でながらその頬に軽いくちづけをし、その震える身体を抱き締めた。マティアスは首を横に振りながらカイの胸にしがみついてくる。 「け、軽蔑されてもっ、恨まれても仕方ないって……分かっているっ……」  カイはさらにマティアスをきつく抱き締め、耳元で囁いた。 「マティアス、事実を知っても俺の気持ちは変わらない。ずっとそばにいる」 「で、でもっ!」  マティアスはカイの胸から顔を離し見つめてきた。 「私は、ウィルの……大事な家族の記憶まで……奪ってしまったんだっ」 「……俺にも、家族がいたのか?」 「……ウィルの家族は『黒霧の厄災』で皆亡くなって……。ウィルはボルデ村の生き残りだ。そんな大事な記憶なのに………っ! 家族をもう一度殺してしまったようなものだっ」  カイにとって家族がいたと言うのは嬉しい情報だった。既に死んでしまっているのは残念ではあるが。 『黒霧の厄災』で犠牲になったとすると、子供の頃に既に失っていた事になる。その後マティアスに出会ったことを予想すると、過去の自分がマティアスを好きになり愛し執着した理由が分かる気がした。 「マティアス。そんなに何もかも罪の意識を背負わなくていい」  泣き過ぎて真っ赤に腫れたマティアスの瞳を見て、頬を手の甲で優しく撫でた。 「処刑か記憶剥奪かで記憶剥奪を選んだのは正解だったんだ。だってこうしてまた出会えたんだから! それに、俺でも同じことをするよ。ここに来てお前が瀕死で医者も見つからなかった時、俺は何でもいいから助ける方法は無いかと考えてた。きっとそれと同じだったんだ」 「ウィル……」 「マティアス、祖国を危険に晒してしまった事も一人で背負うな。俺にも背負わせてくれ。…… 一緒に帰ろう」  暖炉の炎が強く燃え上がり薪が爆ぜる音がする。炎の灯りで照らされたマティアスの顔を見つめてカイはさらにその言葉を口にした。 「俺はどんな形であれお前の側にいる。お前がそれを許さなくてもな」  それを聞いた途端、マティアスは目を見開きさらに涙を溢れさせた。 「ハハッ、もう泣きすぎだ。目が溶けちまうぞ」 「うん……ごめんっ……」 カイは再び泣くマティアスを抱き寄せ背中を撫でた。

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