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第三章 震③

「どうしよう……どうしよう……っ!」  二人とも急いで服を着て一階に降りた。だが何かできる訳でも無い。オロオロと歩き回るマティアスにウィルバートが尋ねてきた。 「火焔石って、実際は何なんだ? 石炭とはちがうのか?」 「わ、わからないんだ……」  先王イーヴァリが老魔術師ベレフォードと共に長年研究し、その後をマティアスが引き継ぎベレフォードやその弟子たちと調査を進めてきたが結局よく分からないままだ。 「大量に火に焚べるわけにもいかなくて研究はあまり進んでなかった……。だからヴィーが教えてくれた『使わなければ厄災は起きない』と言う情報はかなり有力だったんだ」 「さっきヴィーは『小さきモノたちが閉じ込められている』とか言ってたよな? 中に何か生き物がいるのか?」 「生き物……」  マティアスは身の奥からざわつくように気味悪さが湧き出てるのを感じた。 「……火焔石を燃やすと、燃え尽きる寸前に嫌な音がするんだ。鉄の板を擦ったようなキィーッてて音。でもその音は魔力があるものにしか聴こえない」  マティアスが幼い頃、この音を母は嫌がり自室の暖炉では薪を使っていた。王家出身の母がせっせと薪を運んでいると周りの大人達は皆代わりに運ぼうとしたが、母は『私の我儘だから』とその申し出を断っていた。  あの不快な音。単に高音が不快なのだと、そう言うモノなのだと気に留めてなかったが、もしかして……… 「その音ってのは、その魔物か何かの断末魔ってことか?」 「そうだったのかも……」  それを何千年と渡り燃やし消費していたのかと考えると恐ろしくなる。 「ヴィーは山に帰ったんだろうか……」  バルヴィアの切羽詰まったあの様子。すぐに黒霧の厄災は起こってしまうのか、はたまた数カ月や数年先なのか。おそらく何千年と時を過ごしているバルヴィアは通常の人と時間感覚が違うだろう。 「もしかしたら、からかって来ただけかもしれないぞ。ちゃっかりヘルガさん所でメシ食ってるかも」  ウィルバートが気休めの薄い可能性を言う。マティアスをなんとか励ましたいと思ってくれているのだろう。 「……ハラルドさんとヘルガさんに聞いてこよう」  しかしここに居ても何も出来ない。マティアスは居ても立っても居られずハラルドの家に行くことにした。

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