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第三章 震⑦
「俺は『黒霧の厄災』のことを知った時、もしそれが起こったら、お前を連れて逃げたいって思った! だからこの状況は俺にとって好都合だ! 帰したくない。いや、帰さないっ! お前一人を生贄にするような国にお前を渡さない!」
ウィルバートがマティアスをきつく抱きしめた。苦しい程に。
「ウィル……」
「全部、俺のせいにしろよ……! ヴィーに力を与えたのも俺の為だし、ここから離れられないのも俺がいるせいなんだから……」
抱き締めながらウィルバートは泣いているようだった。
「ウィル……すまなかった。黙って行こうとしたのは不誠実だった」
マティアスは自身に抱き着き離そうとしないウィルバートの背中をポンポンと叩いた。
「ウィルに言ったら決心が揺らぎそうで……」
「そんな事言って、結局俺の元に来てんじゃねーかっ!」
「うん、そうだね……。全然決心ついて無かったみたい」
ウィルバートが声を荒げ感情的になってくれたお陰でマティアスは自分自身がかなり落ち着いてきたと感じた。
「ねぇウィル、聞いて。何とかしてヴィーを止めないといけないんだ。何もせず放り出すことはやっぱり私には出来ないよ」
マティアスはウィルバートの肩を持ち自身から引き剥がすとその涙に満ちた黒い瞳を見つめた。
「私が民の不幸の上に成り立つ幸せを、幸せだとは感じる人間なら、ウィルはきっと好きになってくれてないよ」
「そんなこと無いっ! マティアス、俺はお前が生きてるだけでいい……」
「ウィル……、ごめん。私にそれは無理だよ。形式上は変わってるのかもしれないけど、私はまだ自分がアルヴァンデールの王だと思ってる。民を放ってはおけない」
自分自身に言い聞かせる意味も込めそう宣言した。見つめてくるウィルバートの黒い瞳から涙が線となってこぼれ落ちた。マティアスはその涙を吸い取るようにウィルバートの頬にくちづけた。
「……ウィル、すまない」
マティアスはウィルバートの頬でそう囁くとその唇に唇を押し当てた。するとウィルバートもまたマティアスの腰を強く抱き寄せ唇を押し当ててくる。どちらともなく舌を絡ませ吸い合い熱いくちづけを交わした。
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