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第三章 震⑩

「じゃあ、うちで食事していきなさい」  ヘルガの突然のその言葉にマティアスは喉から「へ?」と裏返った声が出た。 「その飛竜に乗っていくならすぐ着くでしょう? 少し位出発が遅れてもいいじゃない。すぐ用意するから」  ヘルガはそう言うとマティアスの返事を待つこと無くスタスタと家に戻っていく。 「へ、ヘルガさんっ! で、でもっ」  マティアスは一刻も早くバルヴィア山へ向かいたかった。アルヴァンデールの被害状況は分からないが時間が経てば経つほど当然被害は広がる。焦るマティアスの肩にウィルバートが手を乗せた。 「マティアス、そうさせてもらおう。俺たち、今朝から何も食べてない。この後を最善に乗り切るならば準備は怠るべきじゃない」  ウィルバートの言葉にマティアスはハッとした。これは言わば戦だ。短時間であっても出来る限りの準備や装備を整えるべきだ。幼少から散々習ってきたことなのに冷静さを欠いていた。 「わかった。そうしよう」  マティアスはヘルガの後を追い歩きながら、ダンに声をかけた。 「ダン、この村にも魔術の杖を持っている人はいるか? できれば提供してもらいたい。あと、ウィルにも剣が欲しい」 「わ、わかった! 探してくるよ!」  ダンは頷き走りながら近くにいたマルコや若者たちに声をかけはじめた。それを見ながらマティアスとウィルバートも急ぎハラルドの家に入った。 「何も用意してなかったから大したもの無いけど」  マティアス達が家に入るとヘルガが次々と料理や食べ物を出してきた。同じ二人暮らしなのにどうしてこうも料理の作り置きや保存食が大量にあるのかいつも疑問だ。 「いえ、十分過ぎますよ。私の料理は三通りくらいでしたから、久しぶりの豪華な食事です」 「でも頑張って作ってくれてたよな」  マティアスが苦笑いで言うとウィルバートが優しく微笑んで褒めてくれた。   「そうね、レオンは慣れないなりに毎日頑張ってたわねぇ」  ヘルガにも褒められてマティアスは胸の奥がくすぐったくなった。 「経験の無いことばかりで……。でも、とても楽しかったです」  マティアスは涙を堪えて笑顔で答えた。 「さあさあ、どんどん食え」  ハラルドがそう言って二人にパンの入った籠を差し出してきた。 「はい、いただきます」  久しぶりに食べるヘルガが焼いたパンは素朴で温かかった。

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