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第三章 震⑪

 しっかりと食事を取るとウィルバートはハラルドと共に一旦丸太小屋に行った。途中になってしまった仕立ての仕事をそれぞれ村人たちに返してもらう為と、家に残った食材の説明など諸々だ。  マティアスはウィルバートを待ちながらゆっくりヘルガの料理を味わっていた。 「髪、編んであげる」  ヘルガがそう言って櫛とリボンを持って来た。 「ありがとうございます」  ヘルガが優しい手つきで髪を梳かしてくれる。ウィルバートとは違う小さく柔らかな手だ。 「良く手入れされてるわねぇ」 「あ、ウィルがやってくれてて」 「ふふ、大事にされてるわねぇ」 「あ……はい……」  何となく二人の関係が見破られている気がしてマティアスは耳が熱くなるのを感じた。 「……ヴィーが来た時ね、『選んで生まれた土地でも無いのに、そこに執着するヒトの仔は実に馬鹿で、実に可愛い』って言われたわ」  ヘルガはクスクス笑いながら、マティアスの髪を編んていく。 「本当よね……おばあちゃんになると頭が固くなるのよね。もっと柔らかく考えられれば、あなたたちともっと楽しい時間が過ごせたのに……本当に馬鹿よね……」  マティアスは何と返したら良いか分からなかった。ヘルガは悪くない。何も言わずに家に居座った自分の方が断然悪い。しかしマティアスは自身がアルヴァンデールの王である事は悪いとは言いたくない。 「ヘルガさん……私は、息子さんに生きていて欲しかったし、お会いしてみたかったです……」  そう言うのがマティアスの精一杯だった。ヘルガは「フフッ」と笑い、それから静かに続けた。 「……ヴィーも関わってるのね」 「……はい」  ヘルガにもう嘘をつく必要も無いとマティアスは思った。 「あの子が人でないのは分かってたわ。あの子が来ると妖精たちが皆隠れるもの。でもヴィー自体は無邪気でとても良い子」  マティアスは静かに頷いた。 「レオン、まずは自分の命を優先に。それで、もし余裕があったらでいいから、あの子も助けてあげて……」 「はい。やってみます」  マティアスは自分の一人の力で何が出来るか分からないが、多くの人が自分を支えようとしてくれていると感じた。 「はい! 出来た!」  ヘルガはそう言うと手を離した。マティアスの金髪はきっちりと編み込まれ、編み終わりの毛先には青いリボンが結ばれていた。以前バルヴィアがこの家で髪に着けていたものだ。 「ありがとうございます」 マティアスはその青いリボンを見つめ微笑んだ。

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